第一章

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大通りから、枝道に入る。 そこから5分ほどで自宅だ。 駅から近いことを念頭に置いて家を探しておいてよかった。 近いのが一番だ。 枝道の角を曲がると、またあの気配が来た。 今度は背中に冷たいものが走った。 足音… 明らかに、”俺”に向かってる…! 振り返っても、さっきと同様誰も居ない。 こんな時に限って、人通りもない。 どんどん嫌な汗が滲んでくる。 なんで俺に向かってきてると思ったのかわからない。 わからないけど、俺は逃げなきゃと思った。 大学の資料の入ったクリアケースを放り投げて走りだす。 とにかく家に帰りたかった。 枝道を駆け抜け、更に小道に入る。 もう、すぐ。あと少しで家だ… あの角を曲がれば そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。 足音がどんどん俺に近づいてくる。 走っているはずなのに、足が全然前に進まない。 沼の中を走っているようだ。 汗が目の中に入っているのに、拭う余裕がない。 とにかくもがいて走っているのだけれども、一向に光りの当たる場所に出られなかった。 ”隆彦…” 頭のなかに、誰か呼びかけてくる。 「う、うわぁっ…やめろっ…」 なんで頭の中に聴こえて来るんだ…! 頭を掻きむしると、耳を塞いだ。
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