第一章

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”隆彦くん…私苦しかったよ…” 「わかったっ…わかったからっ…」 腕を伸ばしたその手首を誰かに掴まれた。 「彩花…」 「なにしてんの?こんなところで」 彩花は血を流して居なかった。 それどころか恐ろしい声も出していない。 ちゃんと耳に聴こえる声を出していた。 「これ、隆彦のだよね?なんであんなとこに捨てたの?」 さっき放り投げたクリアケースを持ってくれていた。 「あ、ああ…わりいな…」 受け取ったら、彩花はニッコリ笑った。 「今日は隆彦んち行くって言ってたでしょ?」 「あ、あ…そうだっけ?」 彩花がアパートの階段を登っていく。 いつもの光景だ。 だが… どこかおかしい。 なにかがおかしい。 階段を昇る彩花の足首。 血が、伝い落ちていた。 「大丈夫だから…寝てりゃ終わるって…」 「でも…怖いよ…隆彦…」 たった一回失敗しただけで、彩花が妊娠した。 俺たちはまだ大学生で、家庭を持つにはまだ早い。 お互い20歳は超えていたが、こんな時期に子供なんて作れるはずはない。 友人からのカンパも入れて、なんとか手術費用を捻出した。 「彩花…ごめんな…でも、俺ちゃんと責任とるから…」 「隆彦…」 「将来、結婚しような…」
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