第一章

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血の滴る彩花の足首を掴んだ。 「お前のせいで…お前のせいじゃないか…」 「え…?」 彩花が怯えた目をして、俺を見た。 「お前さえ妊娠しなきゃ、こんなことにならなかったんだ…」 「隆彦…?」 「こんな惨めな生活、しなくてよかったんだ!!」 ぐいっと足首を引っ張って、引き寄せた。 彩花の身体が俺の上に降ってくるのを躱して、階段から突き落とした。 手にはべっとりと彩花の血がついた。 「え…?」 その血の中に、丸いものが居た。 「な、なんだよこれ…気持ち悪い…」 払おうとするけど、離れない。 そのうち、その丸いものはどんどん手のひらで大きくなる。 「なんだよっ…おいっ…」 階段の手すりにぶつけても、それは取れなかった。 どんどん、どんどん大きくなる。 「うわああ…なんだよぉぉ…」 それは、赤ん坊だった。 ”ねえ…隆彦…なんで騙したの?” 「あ…あ…やめ、ろ…」 翌朝、隆彦の遺体が見つかった。 アパートの階段の下で、胎児のように身体を丸めて死んでいた。 【END】
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