第二章

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いつも、電車の先頭車両に乗るのが好きで。 どんなに混んでいようと、一本後になろうと先頭車両に乗り込んだ。 身長が低いので見えないときもあるが、運転席から見える線路の風景が由奈はとても好きなのだ。 満員の車内は、いろいろな人の息とか匂いで窒息しそうになる。 けど車窓の風景を見ていれば、それも忘れられた。 帰りの電車は、ロールカーテンが閉まっているから運転席から車窓は見えない。 でもつい習慣で、先頭車両に乗り込んでしまう。 仕事帰りの気怠い身体を、電車の壁に凭れさせて、由奈は帰路につく。 友人たちは次々に結婚していく。 つい先日は後輩も結婚して退職して行った。 残された由奈の双肩には、ずっしりと責任のある仕事ばかりが残されていく。 正直、もう疲れていた。 恋人も、半年前に別れてしまっていた。 ”仕事がそんなに大切なのか” 必死に会社にしがみつく由奈に、そう言い放った。 ”女なんだからそんなにムキになるなよ” そうも言った。 これが決定的だった。 男性に頼らず自立することが、そんなにいけないことなんだろうか。 夫に頼らないと生活していけない局面は、長い人生あるだろう。 だが、人生の今この時、働ける時期に働いてなにが悪い。 自分の人を見る目のなさに、由奈はため息が出た。
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