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彼ら彼女らが何を楽しみに足を運んでいるのか充分にわかっている。十年に渡るマンドリンの演奏活動で培った技術から繰り出される音楽が、円熟を増したピアノ演奏と溶け合う瞬間であろう。その中でもジュール・マスネ作曲の『タイスの瞑想曲』は格別らしく、一度だけアンコールから外した時にはアンケートに不満が寄せられたほどだった。
ソリストとして名を成した人間には、代名詞的な曲をリサイタルのたびに演奏する義務が課せられるらしい。『タイスの瞑想曲』は本来マンドリンで奏でる音楽ではないが、常に求められるのは悪い気がしない。『タイスの瞑想曲』を奏でる間の客席が安らいで見える。そんな時はアンケートの反応も上々であった。
(俺も何とかここまでやれるようになったか)
演奏を終えた後の拍手は、そう思うに足るだけのきらめきを秘めている。音のみならず、客の顔を見ていれば、その心を洗うような演奏ができたことを信じられた。
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