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でも、おっかねぇオーラが出てるわけでもない。
隙がなさすぎて怖ぇのに、全くココん中で浮いてねぇ。完璧に溶け込んでる。
…………怖いはずなのに……不思議だ……。
「桜岡」
その人はとっくに俺から目を逸らしてたんだけど、またこっちを向いたかと思えば亜朗さんを呼んだ。
「オリヴァー先輩、何かありましたか? 」
「あぁ。コレなんだけど、ここに書いてる別添の資料って……」
オリバーって名前のその人は、書類の束を持ちながらこっちに歩いて来る。
……歩いてるだけなのに、妙な威圧感……。
ビビったわけじゃねぇけど、半歩後ろに下がってしまった。
俺が半歩下がったことに気付いたオリバーは…………ぃや、オリバーセンパイは、「ゴメンな」って言って俺の方を見た。
っ!?
この人今、俺のことも見たけど、一瞬さっき俺が睨んだ奴らの方も睨んだ。
ぃや、睨んではねんだけど目が怖かった。スッと目ぇ細めただけなのに怖い。
今の目には明らかな殺気があった。
亜朗さんはオリバーセンパイの持って来た書類に目を通してるから、オリヴァーセンパイが怖い目をしてたことには気付いてない。
…………わざと亜朗さんの気を逸らした……?
……何となくだけど、この人とは絶対に対立しちゃいけねぇし、少しでも敵だと思われない方がいい。
今こっちに来たのだって、虫どもの声が聞こえてても聞こえてなかったとしても、虫が害虫だってことに気付いて来たんだと思う。
けど、もしかしたら俺がずっと亜朗さんを独り占めみたいにしてることで、俺も虫だと思われたからって可能性も否定できない。
「この別添の資料は…………、ぁれ? さっきあの机に置いといたはずなのに……おかしいな……」
亜朗さんが言った『あの机』は、オリバーセンパイがさっきまで立ってたとこの隣。
……ヤバい……。
コレもしかして、この人俺のことも虫認定しかけてる……?
亜朗さんを俺から引き離そうとしてる……?
マズい……コレは非常にマズいぞ……。
俺の焦る心の中に気付くはずもない亜朗さんは、オリバーセンパイに「ちょっと探してきます♪」って言って、俺には「オリヴァー先輩とちょっと待っててね♪すぐ戻ってきて今日使う資料渡すから♪」って言い残して離れて行った。
まだ勉強会が始まってないからか、この大会議室の中はザワザワしてる。
俺が入って来た時は一瞬少し静かになったけど、それももうない。またザワザワしてる。
なのに、俺とオリバーセンパイの間のこの静けさ。相当ヤベぇって。
オリバーセンパイ実はさっきから「ゴメンな、せっかく桜岡と喋ってたのに」とかイイ人っぽく話しかけてきてっけど、それマジで建前。仮面かぶってる人みてぇ。
「ケンシンくん、って桜岡は呼んでたな。ケンシンくんは邑咲市に住んで─────────」
「……ぁの……」
「どうした? 」
「……俺もどっちかっつーと亜朗さんのこと守りたいと思ってる側の人間なんで……」
「……そう。でもどうした急に♪何で俺にそんなことわざわざ言う? はは♪緊張しすぎとか? 」
…………ヤベェ……逆に怪しまれたか?
でも……、多分絶対オリバーセンパイは亜朗さんのこと害虫から守ろうとしてる。それは間違いない。
だって、ぶっちゃけるけどさ?
俺、オリバーセンパイがこっち来る前に亜朗さんが「置いといたはずなのに」って言った資料、机の上から取って別の資料の下にしたの見た。
スゲー素早くやってたけど、俺はバッチリ見たんだって。
だから今のこの状況、全部アンタの仕込みだろが!!
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