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*** オリヴァー・バイロン ***
『オリヴァーが卒業したあと、少し心配だね』
『まぁ俺らも皐月に行くとはいえ、正直いつまでいるか分からないとこあるしな』
「ぇ、俺じゃ力不足ってことですか……? 」
『ぃや、そうじゃないよ♪』
『今までオリヴァーとジョシュアの2人だったのに1人になるのが気になるってこと』
『そう♪ジョシュアのことは当然頼りにしてるよ♪』
「そういう意味でしたか。良かった〜」
キッカケは1カ月ほど前のこの会話だった。
アーサー様とセオドア様が気がかりに思うのは当然だろう。
俺が卒業したあと、ガルガンド家の影として皐月学園に在籍するのはジョシュアだけになる。
今まで亜朗様を陰ながら見守っていた存在が、単純に半分になるということなのだから。
へーミッシュ族長をトップとする我ら一族は、一応本家といくつかの分家があるが、実際には本家分家関係なく実力のある者が上になる。
俺は本家、ジョシュアは筆頭分家だが、年が近いこともあり幼い頃から一緒に訓練を積み兄弟のように育ってきた。
一族は全員親戚関係にあり、俺とジョシュアは従兄弟でもある。
そんな我ら一族は『グレイソン』の名を冠している。
『グレイソンファミリー』という名は、王家や高位貴族は必ず耳にしたことがあるくらい、所謂『影』の存在としては1番実力がある。
一族の歴史は長く、その昔は王家の影を務めていた。
長い歴史の途中で、王家の影を務めていた先祖は王家専属となり、王家に上がっていなかった若手の実力派が興したのが今の『グレイソンファミリー』。
仕える先が別れたのは仲違いなどがあった訳ではなく、遠い昔に何度かあったイングランド内戦の為。
王命により、国王軍に属する貴族の中でも最も国王が信頼を置いているいくつかの貴族の元で影として仕えることになったのだ。
王家直属ではないからこそ、『その家の当主の判断で動かすことが出来る王家の影』のような存在。
多くは語られていないが、イングランド内戦の国王軍の勝利には『グレイソンファミリー』の活躍も大いに関係しているらしい。
そして、グレイソンファミリーの次期族長候補として名前が上がっている俺とジョシュアは、へーミッシュ族長とへーミッシュ族長が仕えているラントランドル公爵閣下からの命で、『復興の゙手助けをする為』という名目でガルガンド侯爵家に配置されただけだったのだが、今ではアーサー様とセオドア様の゙素晴らしさにすっかり惚れ込み、生涯の忠誠を誓っている。
そんなアーサー様とセオドア様が、俺が卒業したあと亜朗様を見守る人間がジョシュアだけになることを気にしていた。
ジョシュアの実力は、アーサー様とセオドア様は勿論、俺を含めた一族の誰もが認めるものではあるがいかんせん皐月が広すぎる。
俺とジョシュアは、なにもずっと亜朗様を見ていることだけが仕事ではない。
亜朗様が入学した当初は、言葉通り亜朗様をただ見守るだけだったのだが、親衛隊の一件以来亜朗様に害をなす恐れのある人物の監視も行っている。
その為、いくら影としての実力は充分だとしても、分身できる訳ではないので、亜朗様を見守りながら監視も同時に行うのは難しい。
グレイソンファミリーから多少年齢を誤魔化してでも新たに誰かを皐月に入学させても良いのだが、残念なことに高校生として通用しそうな容姿の子供がいない。
18歳の俺と、17歳のジョシュアより年下の子で1番年が近い者でも11歳。いくらイギリス人と日本人を比べるとイギリス人の方が大人っぽく見えるとはいっても、さすがに11歳が高校生に扮するというのは無理がありすぎる。
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