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それに、もしどうにか高校生に見えるようにしたとしても、皐月に入れるだけの頭がない。
今から勉強に力を入れれば、実年齢が高校生になる頃には皐月に入れるくらいにはなるだろうが、その頃には亜朗様はもう卒業しているから意味がない。
では逆に俺とジョシュアより少し年上の仲間はどうだろうか、と考えたこともある。
『老け顔』ということにしておけば大丈夫じゃないかとも思ったが、残念なことにこちらも皐月に入れるだけの頭がなかった。
30代の者で1人、ズバ抜けて頭の良い者もいるが、11歳同様に30代が高校生に扮するのも無理がある。
ドラマや映画で成人済み俳優が高校生に扮するのとは訳が違う。
もっと言えば、彼は歴戦の貫禄がありすぎて、むしろ40代に見られるくらいだ。
──────────という状況のグレイソンファミリー。
いくら影として優秀な一族といえど、ただでさえ自分達と比べたら幼く見えがちな日本人の中に自然に溶け込むには、リアルに高校生の年齢の者ではないと無理だという結論に至った。
無理をして潜り込み、違和感を抱かれるなんてことになってはグレイソンファミリーの名折れ。
つまり、アーサー様とセオドア様の憂いへの対策の為に開いた先の一族会議に於いて、今のグレイソンファミリーには適任がいない、という分かり切った結果しか出なかった。
しかし、だからといってアーサー様とセオドア様に「どうしようもありません」などと伝えることはできない。
グレイソンファミリー内だけで対応できないのであれば、他を頼るというのも1つの案にあった。
我々グレイソンファミリーは由緒正しいイングランド貴族達に仕えている影だが、この広い世の中には色んな国にそれぞれ同業者がいる。
影と呼ばれていたり暗部と呼ばれていたり隠密と呼ばれていたり……様々ではあるが同業者で間違いない。
国内のみで対応を終えられない場合もある為、同業者同士で情報をやり取りする事もしばしばある。
恩を借り、恩を返す。影として優秀であればあるほど、そういったやり取りは必然的に多くなる。
つまりグレイソンファミリーは同業者との繋がりが多い。
「王一族の諜報部に相談してみよう」
そう言ったのはへーミッシュ族長だった。
「王一族の本国である中国と、今の総代の王 颯懍氏も居を構えている日本に於いては王一族の諜報部が1番情報を持っている。何か良い案を恵んでくれるかも知れない」
その言葉を受け、俺とジョシュアは早速王一族の諜報部へと連絡を取った。
王一族の諜報部もその歴史は長く、先の大戦ではバチバチに敵対したこともあったが、現代では互いに実力のある者同士認め合い、良い関係を築いていた。
そして数年前には、前ガルガンド侯爵閣下と王一族の総代である王 颯懍氏の間に、『亜朗様』という大切な存在が共通していることを知った当主同士が仲良くなったこともあり、我々影同士もより関係が良くなった──────────というか、普通に仲良くなった。
「──────ということなんだが、何か良い案……というか、いい人材いないか? 」
『ん〜……ウチの諜報部は基本成人してる奴しか仕事させないからなぁ……同じアジア系ではあるけど、高校生は無理あるかなぁ……。そもそもウチの諜報部は高校生になんて絶対見えないくらいにむちゃくちゃゴツい奴しかいないけど? 』
「「うん知ってた」」
俺とジョシュアがビデオ通話をしている相手は、王一族の諜報部のエースである人物。名前は『トミー』。
王一族の諜報部に於いて、俺やジョシュアのように次期リーダーと目されている1人で、日本人。
『トミー』と聞くと日本人ではないのでは、と思うが勿論ただの愛称である。
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