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「ましてやその為に、大吉にとって大切な────────勿論俺にとっても大切ではあるけど、大吉にとっては自分の創ったチームを、今も当時と同じ想いで守り継続してくれている地元の可愛い後輩を積極的にそういった役割を与えることはできない」
「「はい」」
『積極的に』はできないけど、絶対にやらせないって訳ではないということ。
「ただ、その子はどちらかというと、皐月に入学したら亜朗を守ると言っているらしい」
…………何故……?
そいつは亜朗様を傷付ける何かがある、誰かがいると思っているってことか?
それともそれがある、いるのが確実で全てを把握しているというのか?
俺が把握して見張っている親衛隊以外に何かあるのか……?
「……ふふ♪オリヴァーもジョシュアも今、その子が亜朗を傷付ける何かを把握してるのか? って思ったでしょ♪」
「「っ!? 」」
王氏に思っていたことを言い当てられ、僅かだが体が揺れる。
……何で……?
この方は全て分かってるというのか……?
「あは♪ゴメン、そんなビビらないで♪俺、何となくだけど空気───────って言っても、日本人が読むのが上手いその場の雰囲気って意味の空気じゃなく、その人の纏うオーラみたいのが表情が見えてなくても何となく分かるんだよね♪」
「……ス、スゴいですね……」
思わずと言った感じでジョシュアが言えば、王氏は「ありがと♪」と笑う。
……まぁ、だからこそ若くしてあの王一族の総代を務められているのだろう。
前の総代が早くにその地位を譲ったのも頷ける。
「ま、でね? その子は別に亜朗に何か危険があると思っている訳ではない。実際にはまだ皐月には外部と内部の軋轢は多少残っているけど、その問題で亜朗に何かあれば喬二さんが直接手を出すと威してあるから大丈夫だよね? 」
「「はい」」
それについては勿論俺とジョシュアも直接その場にいて聞いている。
それに保険医の竹内先生も、あの様子なら本気で亜朗様を守る為なら自分が今持っている物全てを捨てるだろう。
あの時の竹内先生の気持ちほとんどの生徒に伝わっただろうが、俺とジョシュアから見た竹内先生の目は俺やジョシュア、引いてはグレイソンファミリーが持つ目とほぼ同じだったことに少し驚いたのはまだ記憶に新しい。
『決して裏切らない』
『己の命に替えてでもお守りする』
『世界で一番尊い存在』
……その人の為ならば、何度でもこの命を差し出す覚悟を持った者の目だった……。
竹内先生のそれほどの覚悟に気付いた者は俺とジョシュアの他にはいなかったと思う。
とはいえ、竹内先生を怒らせるのは得策ではない、というのは理解したに違いない。
「その子はただ、亜朗から貰った言葉が嬉しくて、亜朗を慕うようになって、亜朗が何か嫌な目に遭うことのないようにしたい。ただそう思っているだけなんだ」
「「……はい」」
なるほど。
それはそれで納得だ。
亜朗様から貰った言葉がどういったものかは分からないが、その言葉に『嬉しい』と感じたならば、亜朗様をお慕いするのも分かる。
例えそれが社交辞令だろうが、裏の意味を彼が読み切れなかった嫌味だろうが、『嬉しい』という感情が動いた彼にとっては『嬉しい』以外の何物でもない。
彼の『嬉しい』は彼のものだ。
……ま、亜朗様が嫌味を言うなんてあり得ないから、十中八九本当に素敵なお言葉だったんだろうが。
僅かに俺が頷いたのを見た王氏が画面の向こうで優しく微笑む。
「だからさ? オリヴァーとジョシュアが上手くその子を巻き込んで欲しい……」
「……俺達が……」
「巻き込む……」
オウム返しになってしまったが、ジョシュアと共に王氏のこれまでの言葉を反芻する。
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