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微笑んでレジーを見ているセオドアの横でアーサーが可笑しそうに笑っていることなど気付かないほど、今のレジーは緊張している。
アーサーとセオドアに失礼を働いたオリヴァーとジョシュアを庇うような真似をしていること自体、自分もアーサーとセオドアに対して失礼なことをしていることになる。
それでもオリヴァーとジョシュアを見放すことができないレジーに、イーサンとヘンリーは援護をしようと口を開くが、レジーは「2人は黙っていなさい! 」と一喝。
普段、全くと言っていいほど声を荒げることのないレジーのその様子に他の生徒達の雰囲気も緊張を帯びる。
「レジー様」
「は、はい……っ! 」
「少し落ち着きましょう? 」
「は……っ、はひ……っ!? 」
セオドアが「少し落ち着きましょう? 」という言葉とともにレジーの冷たくなった手を取り、ポンポンと宥めるように擦ると、レジーから上擦った驚きの声が漏れた。
「俺もアーサーも、オリヴァーとジョシュアに失礼なことをされた事などありません♪」
「で、では何故……」
レジーに問われ、セオドアはレジーの目を真っ直ぐに見詰めて微笑み、口を開く。
「レジー様、伯爵家である貴方様が男爵家のオリヴァー、子爵家のジョシュアを大切にしてくださっていることに感謝します♪ありがとうございます♪」
「……は、……ぇ……? 」
「実は、オリヴァーとジョシュアは我がガルガンド侯爵家の使用人の息子なんです♪」
「……………………え? 」
少しの嘘─────正確には『使用人の息子』ではなく、『影』という立派な『使用人』だ─────を混ぜたセオドアの発言にレジー達貴族はポカンとし、他の生徒達は僅かにザワつく。
そのザワつきに対し、アーサーが生徒達の方をぐるりと見回して口を開く。
「ここにおられる生徒の皆様も、騙すような真似をしてしまい大変申し訳ありません」
「実は、私が日本で行っている事業を今後発展させてゆくにあたり、皐月に通う皆様の中から我が家の事業に合いそうな優秀な人材を見付けて欲しいという私の指示で皐月学園に入学をさせたのです」
「オリヴァーのバイロン家も、ジョシュアのセラヴィア家も我がガルガンド侯爵家に実によく尽くしてくれる使用人を出してくれている家門なのです」
こちらも少しの嘘───────バイロン家からも、セラヴィア家からも使用人は出されていない──────を混ぜたアーサーの説明に、生徒達はよく分からない貴族の世界だからこそ、『あ。そうなんだ』くらいの気持ちでアーサーとセオドアを見ている。
「……ですが、私の指示がオリヴァーとジョシュアがガルガンド家とは何も関係ない人間であるように偽るものであった事は、皆様を騙すような形でした。そのことをここにお詫びいたし────────」
「アーサー様ぁぁぁぁっ!! 」
「わぁぁぁぁぁぁ!! アーサー様が頭を下げることではありませんっ! 」
アーサーが頭を下げようとした時、レジーを躱してオリヴァーとジョシュアが物凄いスピードでアーサーの下に駆け寄り、片膝をついてアーサーを見上げる。
「アーサー様! ガルガンド家のお役に立ちたいからと、皐月への入学を希望したのは俺とジョシュアです! 」
「そうですっ! アーサー様とセオドア様は『遠い日本に行くのは心配だ』と一度は反対をしてくださったくらい俺とオリヴァーを大切に思ってくださっているのに……っ! 」
「アーサー様は何も悪くありません! 俺とジョシュアこそ皆に土下座をするべきですっ! 」
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