1005人が本棚に入れています
本棚に追加
その後やっとアーサーとセオドアへ残る5人の貴族の挨拶がされたのだが、アイザックが「アルバート・ロスチャイルド子爵が次男、アイザックがロード・ガルガンドとサー・セオドア・アーロ・ガルガンドにご挨拶申し上げます」と名乗ったところで、アーサーとセオドアの笑顔がほんの一瞬だけ固まったことに気付いたオリヴァーとジョシュア。
「……お前……アイザック本人すら自覚していないような亜朗様への恋心……チクッたのか……」
「『チクッた』なんて人聞きの悪い言い方すんな……。俺は忠誠を果たしただけ」
「……ま、アイザックはイイ奴だけど、アーサー様とセオドア様には敵わないもんな……」
「………………アイザック、マジでゴメンな……」
「……まぁアレだ……どちらにせよこの後……」
「うん……」
ボソボソと、『影』として鍛錬を積んだからこそ聞き取れるくらいの小さな声でほとんど口を動かさず会話をする2人の視線の先には、挨拶をくれた貴族達に笑顔で対応しているアーサーとセオドアの姿。
「……セオドアのミドルネーム『アーロ』っていうのか」
全ての挨拶が終わったタイミングでのノリのこの言葉に、思い切り口を開いて驚くセオドア。
「えっ!? ちょ、か、一樹俺のミドルネーム知らなかったの!? 」
「スマン。初めて知った」
「ウソでしょ!? 」
「ホントだ」
「い、1年も付き合いあったのに!? 」
「本当にスマン」
「じゃ、じゃあまさかアーサーのも知らないとか言う!? 」
「ゃ、アーサーは知ってるぞ。アーサー・フィンレー・ガルガンドだろ」
「そっちは知ってんのかよ! 」
「だからスマン」
「いいよ許すよ悲しいけど! 」
「俺からも謝る」
「お前はいいよアーサー! なんかムカつくから! 」
「まぁそう言わずに♪」
「いいっつってんだろ!? ニヤニヤすんじゃねーよ性格悪いな! 」
「はっははははは♪」
「笑ってんじゃねぇよ! 」
「こんな所で兄弟喧嘩するなよ」
「いや一樹のせいだから! 」
このノリとの会話でアーサーもセオドアもとっつきやすそうな雰囲気だと伝わったのか、講堂内の生徒達からも笑いが起こる。
「マジでスマン。ていうか、『アーロ』ってなんか親近感湧くな、ってことを言いたかっただけだから」
「「っ!? 」」
自分その言葉に、なんだか過剰に反応したように見えたノリが「ぅん? どうした? 」と2人に聞くと、アーサーとセオドアは何故か少し緊張した面持ちになる。
「一樹のソレはもしかして……『亜朗』という名前と似てるから、ってことかな? 」
「「「「「「「「「ぇ……? 」」」」」」」」」
アーサーの口から『亜朗』という、どちらかと言うと珍しい名前の為、この皐月学園に於いても唯一その名前の者として知らぬ者などいない人物を示す言葉が出たことに、ノリだけではなく全生徒が驚きの声を上げる。
今講堂内にいる生徒は全員がアーサー達の会話に集中していた。
当然、亜朗も大好きなノリがアーサー達と話しているのを見ていたわけで。
アーサーの口から自分の名前が出たことに驚きを隠せないでいる。
「ぇ、亜朗知ってたの? 」
「ぃや……全然知ら、ない……はず、なん……だけど……」
千尋に聞かれ、やや自信なさそうに答えることしかできない亜朗の頭の中には、数日前の理事長室での出来事が過っていた。
アーサーから届いたという先触れのメールの中には、慈朗と睦子の孫について書かれていた。
でも亜朗と大地の中では、その『孫』は自分のことであったとしても『会ったことはない』という結論に落ち着いた。
最初のコメントを投稿しよう!