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だから、そこに『会いたい』という想いがあるのは承知していたが、まさかこんな風に全生徒の前で名前を出されるとは思ってもいなかった。
ちなみに先触れに書かれていた日にちより数日早くアーサーとセオドアが現れたのだが、喬二も言っていたように『サプライズ』なのであればそこは驚く必要はない。
「ぇ……、ア、アーサーもセオドアも桜岡のこと知ってるのか……? 」
ノリの驚きも仕方のないこと。
もし、亜朗がアーサーとセオドアを知っているのであれば、この度の留学生がアーサーとセオドアだと分かった時点で自分の知っている人だと、少なくとも幼馴染みである千尋達や生徒会メンバーには伝えているはず。その結果、その話しは皐月内で人伝に伝わっていただろう。
なのに全くそんな話しはなかった。
チラリ、とノリは自分達がいる場所とは生徒を挟んで反対側にいる亜朗を見たが、亜朗の表情は驚きと戸惑いそのものという印象を受ける以上、亜朗の方はアーサーとセオドアに面識がないと考えるのだ妥当だろう、という考えに至る。
ということは、アーサーとセオドアの方が一方的に亜朗を知っているということ。
「あぁ、昔ちょっとね♪」
ノリの『知っているのか? 』という問いに微笑み答えるアーサー。
「アロにはお世話になったんだ♪な、アーサー♪」
「うん♪というか、アロはむしろ私達の『命の恩人』なんだよ♪」
「「「……っ!? 」」」
『命の恩人』という単語に、レジー達貴族が目を見開く。
数日前に前ガルガンド侯爵や、アーサー、セオドアの言う『命の恩人』についての話しをしていたが、よもや亜朗のことだとは思いもしていなかった。
対して、レジー達とは違う部分に驚いているノリ。
今アーサーとセオドアが亜朗のことを『アロ』と呼ぶ感じがあまりにも自然だったこと。
普段からアーサーもセオドアもそう呼び慣れているのだと頭が勝手に理解してしまうほどに。
「で、一樹、アロはどこにいるのかな? 私達はアロに直接お礼を伝えたいんだが……」
「……ぁ……、あぁ……桜岡は……」
チラリ、とノリの視線が再び亜朗を捉える。
『命の恩人』だとしても、実際の亜朗とアーサー、セオドアとの関係性が分からないのだが、それでもアーサーとセオドアが父親が亡くなる以前も亡くなってからも家の為に良く尽くし、ガルガンド家の復興の為に人生を捧げてきた努力の人であることを知っている以上、彼らが『命の恩人』と言う亜朗にとって危険な人物でないことは理解できる。
ある程度2人の人となりを知るノリにとってこの2人は、とても紳士的で常識的で信頼に値する人物。
仕事上、時に厳しい一面もあるが、それも全て『命の恩人』である亜朗へ『復興』という意味での恩返しも含まれているとすれば、これ程までに亜朗への感謝の思いを抱えている2人は、むしろ情の深い素敵な人だとしか思えなくなる。
と、ノリがそんなことを考えている間に、レジーから視線を送られたイーサンがその体格に見合うほどの歩幅で亜朗の下へと向かう。
走らないのは貴族らしさからだろう。
亜朗の方も、イーサンが自分に向かってきていることは理解しているが、『命の恩人』に身に覚えがない。
しかし身に覚えがないからといって逃げ出すものでもない。
結果、キョドキョドしつつもイーサンを目で追うことしかできない亜朗。
「桜岡」
「イーサン、先輩……」
「さぁ。アーサー様とセオドア様の下に」
そうして、全員の視線が注がれる中、イーサンが亜朗の目の前に立った。
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