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「桜岡 亜朗と申します。ア、アーサー様セオドア様、お初にお目に─────────」
「『お初』じゃないよアロ……ッッ!! 」
言葉を遮り、ガバァ! とセオドアが亜朗に抱き着いた。
先程までの貴族らしい振る舞いはどこへ行ったのか。
生徒達はキョトンとし、イーサンやレジー達は自分達も貴族らしい振る舞いを忘れたかのようにギュウギュウに亜朗を抱き締めるセオドアの周りをウロウロ。
セオドアを止めようか、しかしそれは不敬になってしまうのではないか、と迷っているのが窺える。
「ぇ、ぶ……、ぇと……あの……っ、」
「しかも『セオドア様』だなんてそんな他人行儀な……っ! 」
スリスリと高速で亜朗の頭に頬擦りする今のセオドアは、どこにも貴族らしさがない。
「で、ですが……」
「ダーメ! 『ですが』とかダーメ!! 敬語もナシ!! 敬称もナシ!! 」
「ぇ、でも……」
「『でも』もヤダ!! 」
高速のスリスリが止まらない。
ギュウギュウに抱き締める力も全く弱まらない。
そこ上、子供のような言葉遣い。
どことなくマコシューのような空気を感じ取り、このような場合は相手に合わせることが、1番素早くこの事態を終わらせられるのだと気付いた亜朗。
こっそりとマコシューに頭の中で感謝をする。
「えーと、それでは……セオドアさん……? 」
「違う! 違うよアロ!! そうじゃない!! 」
順応力の高い亜朗。
もはやその表情はマコシューを相手にする時のようで、「ぇえ〜……? 」などと困惑した声を漏らす。
最初こそセオドアの行動に驚いていた生徒達だが、亜朗の態度と表情を見て、吹き出してしまう生徒も多数。
「じゃあ……セオドアくん、ですか……? 」
「なんでっ!? 」
「『なんで』とは何故なのでしょう……」
『なんで? 』と言われる意味が分からない。
もう色々諦めたのか、亜朗はスン、という表情。
この表情の変化に、吹き出す生徒がまた多数。
「もぉぉぉぉ! わざと俺のこと焦らしてるだろ!? 」
高速スリスリを止め、ガバッ! と亜朗の両肩を掴んで引き離すと、セオドアがムッとした表情で亜朗を見詰める。
が、次の瞬間には────────────
「あぁぁぁぁ! やっぱり可愛いっ!! 昔も可愛らしいとは思ったけど今はもっと可愛いッッ!! 昔からホンット可愛い……ッッ!! 」
──────────と、再び高速スリスリに逆戻り。
「む、『昔』……ですか……? 」
「そうだよ!? 昔会ったことあるのにアロ忘れてる!? 」
「ぇ、……と、いつ……ですか……? 」
「11年前っ! ホントに覚えてない!? 」
「『11年前』……? 」
『11年前』というワードは16歳の亜朗にとって、色々な感情に訴えるモノがあるワードだ。
来年にはそれは『12年前』になるし、再来年には『13年前』になるだけ。
亜朗にとっては、生涯忘れえぬ罪、生涯かけて償わなければならない罪を犯した年という認識である。
「……じゅ、『11年前』の自分は…………、その……、俺……は…………」
誰かの『命の恩人』だなんて有り得ない。
むしろ『11年前』の自分は、誰かの────────千尋と三つ子の命を危うく奪う側の人間で……。
昏くなりかけた亜朗の表情。
「ホントに覚えてない!? 俺だよ!? 『テディ』だよ!? 」
「え……? 」
亜朗の表情が驚きのそれになる。
俯きかけた顔が上がり、セオドアの顔を間近で見詰めると、亜朗の瞳が自分を正面から捉えたことにセオドアは嬉しそうに笑う。
「昔みたいに『テディ』って愛称で呼んで欲しい♪」
「…………テ、『テディ』……? 」
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