*** アーサーとセオドア side others ***

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「……っ、ズッ……すまない……」 全員の視線がアーサーに集まってしまった為、恥ずかしそうに少し顔を逸らし、涙を拭おうとした時─────────── 「ハンカチどうぞ♪使ってください、♪」 「「「「「ッッ!? 」」」」」 笑顔でハンカチを差し出した亜朗が、アーサーを『アート』と愛称で呼んだ。 アーサーとセオドアだけではなく、レジー達も驚愕して亜朗を見詰める。 日本人にとっては、セオドアの愛称が『テディ』、アーサーの愛称が『アート』であることは、少し理解しづらいだろうと思っていた。 『アート』はまだ本名の面影は残っているが、『サ行』で終わる名前が『タ行』で終わる愛称は、もはや日本人にとっては名前に関係ないレベルの愛称、という認識だろうと思っていた。 単純に『Arthur(アーサー)』というスペルを『Art(アート)』まで短くしただけのものなのだが、日本人の名前は大半が漢字だからこそスペルから愛称ができることに馴染みはないはず。 例えば、『亜朗』なら『あ』と『ろ』と『う』で分けて組み合わせたりした愛称ができるのだろうが、『Arou』とスペルで考えると『アリュ』や『アル』、『アリー』なんて愛称も考えられる。 いずれもその愛称から『亜朗』という本名を導き出すのは、この感覚のない日本人からしたら難しいことではないだろうか。 セオドアという名前も、『Theodore(セオドア)』というスペルを短縮すると『Theo(セオ)』や『Teddy(テディ)』になるが、それもまた日本人の感覚とは違うのだろう。 そう思っていたからこそ、アーサーやセオドアよりも日本歴の長いとはいえレジー達が『驚愕』した訳がそこにある。 亜朗がアーサーが『アート』という愛称であるという事実を知っている程、親しいという事に他ならないのだから。 「………………」 驚いているのはレジー達だけではなく、当の本人もそのようで固まってしまっている。 「ぁの、アート……ですよね? 」 「……ァ、アロ……? 」 「はい♪……その……、不敬かとは思うのですが、涙を堪えているお顔、昔カルタで遊んで1勝もできなくて泣きそうになってた時のお顔と同じだったので……それで思い出してしまいました、スミマセ───────って、えぇっ!? 」 言葉の途中で亜朗が驚くのも無理はない。 何故なら、遂にアーサーの綺麗なブルーの瞳からポロポロと涙の粒が落ちてきたからだ。 「っ、…………ふ……っ、」 肩を震わせ顔を下げてしまった為、涙は頬を伝うのではなく言葉通りにポロポロと落ち、講堂の床に小さな小さな水滴を作ってゆく。 「ア、アート……」 「アート! な、何だよお前らしくないな! ……ど、どうしたんだよ、……そんな、に……っ」 「テディまでっ!? 」 アーサーが見たことのないほど泣いているのを見たセオドアの瞳にも涙が浮かんでくる。 「ぁ……ぁり……っ、」 「ん? なに? アート、どうしたの? 」 動揺からか、いつの間にか敬語ではなくなっている亜朗が俯くアーサーの顔を覗き込み、手にしていたハンカチで優しく目元を押さえる。 「ぁり……っ、ふ、ぅ……っ」 「……ゆっくりでいいよ? 俺に何か言いたいんだよね? 大丈夫、待ってるよ♪」 「……っ、アロ……っ、」 「うん、なぁに? 」 ゆっくりと、アーサーの二の腕辺りを擦って落ち着かせようとする。 するとアーサーの震える手が亜朗のその手をギュッと握り、やがてその手はアーサーの額にくっつくような位置までくると、アーサーは震えるままの両手でキツく、しかしとても大事そうに亜朗の手を握り締めた。
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