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そして、涙で震える声で亜朗への言葉を紡ぎ始めた。
「……っ、アロ……あり、ありがとう……っ、本、当に……ありがとう、ありがとう……」
「……アート……」
「ずっと……、伝えたかっ……ありがとう、と……」
「……ううん……俺自身は何をしたのか覚えてないから、そんなに……」
「いいや、いいや……っ! それでも、ありがとう……っ! アロ、どうか受け取ってくれ……この感謝の気持ち……」
「…………ぅん……分かった……」
亜朗がそう答えた瞬間、今度はアーサーにギュウギュウに抱き締められる亜朗。
「アロ……っ! 会いたかった……! 本当に、ずっと……っ、いつも……! 」
「…………アート……」
「会いたかった、本当に……会いたかっ、アロ……っ! 」
「…………ぅん……」
「会いたかった……11年、ずっと会いたかった……ありがとう、会いたかった……」
「……ありがとう……、すぐ気付けなくてゴメンね……」
「そんなの……っ! 」
亜朗の謝罪に、アーサーはガバッ! と亜朗の両肩を掴んで離れる。
セオドアと同じ動きをするアーサーに笑いそうになるのを堪えてニヤニヤしてしまっている生徒もいるが、アーサーの涙につられて涙ぐんでいる生徒も多い。
勿論そんなことになど気付きもせず亜朗しか見えていないアーサーは、涙でキラキラと光る瞳で真っ直ぐに亜朗を見詰めて微笑む。
「アロ、いいかい? 俺はアロが俺を思い出してくれたことがこんなにも嬉しくて、胸がときめきすぎて苦しいんだ♪」
「ァ、アート……? 」
「それに、俺はこの11年間あの日のアロに負けないくらい立派な人間なろうと思って努力してきた。なんせ俺は『負けず嫌い』だからね♪」
「ぁ……! ふふ♪そうだね♪」
思い出にある『負けず嫌い』の言葉を聞いて亜朗が笑ったことで、アーサーは亜朗がしっかりと自分達のことを思い出してくれていると確信し、ますます嬉しそうな笑顔になる。
「だから、俺は11年間アロに会いたいのを我慢し、見違えたと思って欲しくて我が家のことも、立派な人間に見られるように容姿にだって気を遣って努力してきたのに、アロにもしアッサリと覚えているなどと言われようものなら、俺はむしろガックリと肩を落として落ち込んでしまっていただろうな♪」
「ふふ♪そうなんだ? 」
「そうだ♪だからすぐに気付けなかった、と気に病む必要はない♪」
「うん、ありがとう♪」
アーサーの優しさに亜朗が笑顔を返した時。
「えー、じゃあ俺は昔と何も変わってないってアロに宣言しちまったってことかよ〜ぉ。俺何回もアロに『覚えてない? 』って言っちゃったんだけど〜ぉ」
何やら不満そうなセオドアの声。
「あぁ♪そういうことだな♪」
「肯定すんな。ムカつく」
「安心しろ、テディは今も昔も可愛い可愛い俺の弟だ♪」
「なんも安心じゃねーなソレ。話しズレてんだわ。ていうか実際俺だって立派になってるだろ。な、アロもそう思うだろ? 」
「そうだね♪昔のテディは俺と同じくらいの身長だったのに、今は俺よりだいぶ大きくなってる♪」
「おう♪騎士爵も持ってるしな♪」
「ぁ、さっきの挨拶の時、『サー』って呼ばれてたよね」
「アロ、テディは学術面で功績を残して王室から騎士爵位を賜ったんだ♪」
「そうなんだ♪」
「アートぉ、お前が言っちゃうなよな〜」
「ははは♪テディは俺の自慢の弟だからつい♪」
このほのぼのとした光景を、もはや誰も不思議にすら思わない。
実際にはこの2人と1人の間には11年の空白があるにも関わらず、その11年の空白を全く感じさせない。
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