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セオドアから視線を投げかけられ、アーサーは呆れ半分、自分をすぐに頼ってくれる弟が可愛いと思う気持ち半分で微笑んでセオドアと亜朗を見る。
「レティシア様の息子がジョルジュ様、ジョルジュ様も日本人と結婚して娘のセツ様が生まれ、セツ様の娘が……アロのお祖母様の睦子おば様なんだよ♪」
「……………………」
「「アロ? 」」
「…………ほ、ほぉ……」
「「ぶっ!! 」」
なかなか衝撃的な事実を教えられた亜朗が驚きのあまりやや気の抜けた返答をしてしまうと、アーサーとセオドアは吹き出し、アーサーはクスクス笑いながら自分も亜朗の手を取る。
「ガルガンド家を継いだのは、レティシア様のお兄様のケイレブ様。ケイレブ様は第3代ガルガンド侯爵で俺はその直系。セオドアはレティシア様のすぐ上の姉のエリーゼ様が嫁いだ辺境伯家の方の家系なんだよ♪」
「べ、勉強になります……っ」
「ん゙゛ふ……っ♪ぁ〜……もうホント可愛いなぁアロは♪」
そう言って笑うアーサーの笑顔は、侯爵閣下として振る舞っている時には絶対に見られない──────つまり、レジー達も見たことのない年相応の可愛らしい笑顔だった。
しかし次の瞬間には、アーサーのその笑顔に驚くレジー達のみならず再び講堂内の全員が驚きの声を上げることになる。
「ね、アロ……♪」
「ぅん? 」
「アロ、俺と婚約しない? 」
「…………………………はぃ? 」
「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!? 」」」」」」」
呆けた返事の亜朗とは反対に講堂内は驚きの声に包まれる。
しかしその声を全く気にせず、亜朗だけを微笑んで見詰めるアーサーは、手に取ったままだった亜朗の手を下から支えるように亜朗の顎の辺りまで持ち上げると、空いている方の手は自分の後ろに回し、軽くお辞儀をするように腰を折る。
「我がガルガンドの名に誓う。8代目ガルガンド家が当主、アーサー・フィンレー・ガルガンドは必ずやアロー・サクラオカのことを幸せにする」
「ァ、アート……っ!? 」
真っ赤な顔で狼狽えてはいるが、アーサーがあまりにも真摯な態度だからその手を外せない亜朗。
自分の手から逃げていかないことから、嫌がられているわけではないのだろうと察するアーサーは同時に亜朗の手が小さく震えていることに気付く。
そっと亜朗の表情を窺い見ると、真っ赤になって呼吸困難でも起こしたかのように口をパクパクしていた。
その様子があまりにも可愛らしく見えたアーサーは、自分よりも小さな亜朗の左手────────その薬指に「愛してる、アロ」と軽くキスをする。
ぅおぉぉぉぉぉ……! ――――――――――――
まるで漫画の世界のようなアーサーの振る舞いに、思わずといった感じで生徒達からはザワつきに似た歓声が上がった。
するとその歓声を聞いたセオドアも行動に出る。
「アート。キスはやりすぎ」
ポカ、とアーサーの頭に軽く握った拳を落とすセオドア。
「いやだなセオドア。ちゃんと親指を挟んださ♪許可を得ていないのに唇を触れるなんてことはしないよ♪」
ニッコリと笑って亜朗の手を離したアーサーが両手を上げて『何もしてません』とアピールしながらの言葉に、生徒達からは「親指を挟むなんて……紳士すぎる……」や、「さすが紳士の国……」といった声がいくつか上がった。
そう。アーサーは亜朗の左手の薬指と自分の唇との間に、亜朗の手を取る自分の親指をしっかりと挟み、自分の親指にキスをしていたのだ。
そして、アーサーの言葉に「あっそ」と返したセオドアは亜朗の正面に立つ。
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