999人が本棚に入れています
本棚に追加
未だ真っ赤な顔のままの亜朗。
その目の前でセオドアはスッと片膝をついて跪くと、アーサーと同様に亜朗の手を取ると再びザワつく講堂内。
「っテ、テテテテテテディ……っ? 」
まさか、という考えから思いっ切り吃ってしまうが、そんな亜朗を真剣な表情で見上げるセオドア。
「俺も、アロを愛してる」
「ぐゎ……」
動揺しすぎたせいで潰されたアヒルのような亜朗の声に、セオドアは優しく笑うと真摯な言葉を紡ぐ。
「俺はアートとは違って高位の爵位を持ってるわけじゃない。ガルガンド家の人間とはいえ、俺には侯爵という立場もないし、所詮俺は弟でしかない。一代限りの騎士爵しかない」
「テディ……」
「だが、騎士であるからこそ、俺はアロへの生涯の忠誠を誓う。騎士という称号に恥じないよう、アロをどんなことからも必ず守り、そして裏切らない」
「っ……」
あまりにも真摯な声だった。
11年振りの再会であるにも関わらず、その言葉をほんの一欠片も疑いようのないほどの。
「だから、俺が幸せにするだなんて烏滸がましいことは言えない」
「……テ、ディ……」
「ただ……どうか、アロの隣で共にアロの幸せを探す手伝いをさせて欲しい」
「……っ」
「…………アロに降りかかるあらゆる悲しみ、苦しみ、辛さに……時として剣となり、アロと共に闘おう。時として盾となり、アロを抱き締めて必ず守り抜く……」
「…………」
「どうか……どうか俺のこの忠誠を受け入れてくれないか……」
そう言って頭を下げたセオドア。
「……ぁ、の……テ、テディ……頭、上げて……」
突然のことで頭が着いて行かない亜朗はセオドアの手を外すこともできずに真っ赤な顔でオロオロするだけ。
亜朗のその様子を見たアーサーが「テディこそやりすぎじゃないか」と不満そうに言いながらも、亜朗を見てニコッと微笑む。
「アロ」
「ア、アート……っ」
「テディは騎士だから、一度忠誠を誓うと誓言したなら、相手に受け入れて貰えるまでこの体勢のままなんだ♪」
「……………………ぇ? 」
何かとんでもない事を聞いた、と言わんばかりの亜朗に、アーサーは笑みを重ねる。
「だからね? テディの忠誠を受け取ってくれないか? 」
「ぇ……、ぁの……」
「アロが受け取ってくれないと、テディは何分でも何時間でも……それこそ何年だってこのままなんだ」
「っ……!? 」
アーサーの言葉を聞き、亜朗の視線はアーサーから未だに跪いて頭を下げているセオドアに移る。
何故。
どうして。
亜朗の頭の中にはその言葉しかない。
人を傷付けることしかできない自分に忠誠を誓うだなんておかしいとしか思えない。
人を傷付ける自分に忠誠を誓うということは、自分が傷付け、未だ苦しませている人を更に傷付ける事になる。
そして、忠誠を誓ったセオドアも最低な人だと思われかねない。
…………それは…………自分がセオドアを……。
そして、この短時間でも分かるくらいにセオドアを大切に想っているアーサーすらも傷付けること…………。
しかし。
これ程までに真剣なセオドアの誓言を受け入れないとなると、ここまでしてくれたセオドアが恥をかくだろうし、悲しんでしまうだろう。
…………傷付けてしまう…………。
「……っ、ど、どう、して……」
「アロ……? 」
亜朗の声が震える。
「ぉ……、俺は……そんな……っ、」
弱々しく首を横に振ると、堪えたかった涙が溢れてくる。
亜朗が泣きそうになっていることに、頭を下げていてもその手の震えから察したセオドアは「それは……」と言葉を紡ぐ。
最初のコメントを投稿しよう!