*** アーサーとセオドア side others ***

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「しかし母上は俺とテディが4歳の時、心筋梗塞で突然亡くなってしまった。本当に突然のことで……。それからだ……父上の様子がおかしくなったのは……」 アーサーのその言葉に何人かがゴクリ、と喉を鳴らす。 「父上は……まるで自分の心を失ったように無気力になり……、仕事もしなくなってしまった」 「幸いなことに、酒に溺れて俺とテディに手を上げるなんてことはなかったが……なんというか……思考ができなくなったというか……」 「頭の中はいつも母上のことを考え……それ以外のことは何も考えられないというか……、そんな感じだったせいで、そこに付け込まれてしまった」 「由緒正しい血筋のガルガンドに平民の血を入れた父上を良く思っていなかった他の貴族が差し向けた詐欺師に騙され、母上を生き返らせる蝋燭だの、神の下にいる母上と話しをできる鏡だの……そんなものに簡単に引っ掛かり、大金を注ぎ込んだ」 「ただでさえ仕事をしなくなっていたのだから、我が家はあっという間に困窮し、使用人達の給金も払えなくなり出て行ってしまった為、誰も父上を諌める人間がいなくなってしまった……」 過去のこととして、淡々と話すアーサーとは反対にレジー達はガルガンド家が過去に潰れそうになった理由を知り、苦い顔をしている。 「……父上が騙されたと気付いた時は、我が家はもうどうしようもないところまできていた……」 「そして俺とテディが6歳の時。父上は俺とテディと共に心中をしようとしたことがあった……。何も分からないでいた俺とテディは、追い詰められていたその時の父上の表情がとても恐ろしく……ただ怖くて怖くて……2人で泣いた……」 話しを聞いていたレジーとイーサンの瞳が揺らぐ。 「でもその時、父上は俺の顔に母上の面影を見付けたらしく、その時は正気に戻り泣いて謝ってくれた……。しかし、父上自身が自分も今すぐ母上のところへ行きたいという気持ちは変わっていなかったらしい……」 「……すると、父上が急に日本へ行くと言い出した。レティシア様の子孫である睦子おば様の所へ行くと……」 「俺とテディは、父上の希死念慮が薄れていないことに気付かず、ただ『家族旅行だ』と喜んだ……。幼かったとはいえ、浅慮(せんりょ)な自分を心底軽蔑するよ……」 表情が強張ったアーサーに亜朗が思わず「……アート……」とセオドアに預けていない右手を伸ばすと、アーサーは躊躇いなく亜朗のその手を取った。 「しかし睦子おば様に会った父上は、俺とテディを引き取ってくれないか、と持ち掛けた……」 「もうガルガンド家は駄目だ、と。駄目になったあと、騙し合いばかりの貴族社会に息子2人を置いてはおきたくない、と。貴族ではない親戚が睦子おば様しかいないのだ、と……」 真っ直ぐに亜朗を見詰めるアーサーの瞳が悲しい色をしていると感じた亜朗は、右手でアーサーの手を。そして左手は、アーサーの話しを聞くにつれ、小さく震えてきたセオドアの手をギュッと力強く握り締める。 「レティシア様は自分の我儘を許してくれたガルガンド家に感謝の思いから、頻繁に手紙や日本の物も送ってくれていた。それはレティシア様の子孫も皆そうで。お陰でガルガンド家はいつの時代も、先の世界大戦の時も……本当はずっと日本が好きだった……」 「……だから父上も元々睦子おば様とはよく連絡を取り合っていた。その結果、我が父ルーベンと俺とテディは、アロと出会うことができ……命を救われることとなった…………────────────
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