*** アーサーとセオドア side others ***

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貴族としてのプライドから隠されていたのか、前ガルガンド侯爵のその様子はアースキン家の耳には入ってきていなかった。 全て終わった頃に、『ガルガンド侯爵閣下は奥方が亡くなってから魂が抜けたようで仕事が手につかなかった。だがやっとルーベン様は立ち直られたようだ』という話しが回ってきただけ。 レジーも父からそのように簡単に聞かされただけだった。 その話しを聞いた時は、それこそ簡単に『奥様が亡くなって気落ちするのは仕方のないこと。立ち直られて良かった』としか思わなかった。 ………………その裏に……よもやこんな辛い物語があるだなんて思いもしなかった……。 「……レジー様、もう昔のことです。そのように泣かなくとも────────」 「いいえ……いいえ……っ! ゎ、我がアースキン家は……今でこそ貴族が(まつりごと)を行わない時代ですが、その当時はロード・ガルガンドの補佐として、と、共にいばらの道をも歩んで……っ、来たと……! 」 「ああ……。我が家の記録にも『真の友』としてその名が書かれています……」 「であればこそ……っ! 『真の友』のガルガンド家が窮地にいたことすら知らず……! ガルガンドの者が心を痛めていたことも知らずにいたこと……! それがどれほど、罪深いことか……っ、」 顔を覆う両手の隙間から、ボタボタと流れる涙の量がレジーの今の心を物語っている。 取り乱しているレジーの姿は、この場の誰にとっても初めて見る姿。 普段のレジーの紳士然としている姿からは想像もつかないほどの姿。 その分、いかにアースキン伯爵家がガルガンド侯爵家を慕っているか。そして何より、あのレジーが取り乱すほど、やはりアーサーとセオドアの過去が辛いものであったのかをここにいる全ての人間がより深く認識をすることとなった。 「こ、こんなことでは……ご先祖様もきっとお怒りでしょう……、次期当主として顔向けもできませ─────────」 「レジー様」 「っ……!? 」 顔を覆うレジーの手をそっと包み、ゆっくりとその手を下ろすのはアーサーの手。 「レジー様。俺自身がこの事実を話したのは、この場が初めてです。父上も自分より爵位の低いところへは徹底して事実が漏れないようにしていました。それはラントランドル公爵閣下の指示でもありました。だからアースキン家の皆様がご存知ないのは当然なんです」 「……ラン、トランドル、公爵閣下が……」 「はい。ですからアースキン家は……レジー様は何も罪深くなどありません。誰がなんと言おうと、レジー様がこのように心を痛めて泣く必要はないのです」 そう言い切り、「ね? 」と微笑んだアーサーは掴んでいたレジーの手をポンポン、とあやすように撫でた。 「っ、ふ……っ、ぅ……アーサー、さま……っ」 「あぁほら、言ったそばからそのように泣くものではないと思いませんか? イーサン様も珍しく相当狼狽えておりますよ? 」 アーサーの言葉通り、イーサンはいつもの堂々とした態度は鳴りを潜め、今はオロオロしながらもレジーの背中をぎこちなく擦っている。 「も、申し訳……っ、」 「ふふ♪レジー様はお優しすぎですね♪」 「アー、サー……さま……っ、」 「さぁ、このハンカチを♪俺はさっきアロのハンカチを借りたので、俺のこのハンカチは綺麗ですからお使いください♪」 「ぁり、ありがとう、ございます……っ! 」 ギュウ、とアーサーの差し出したハンカチを握り締めるレジーの手は、未だ残る罪悪感なのか、それともアーサーへの感謝の気持ちからなのか、僅かに震えていた。
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