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「……あの日……父上は睦子おば様に俺とテディを引き取るのを断られたら、今度こそ俺とテディと心中しようと思っていたらしい……」
「……そ、そんな……」
「だから、アロは本当に……父上と、俺と、テディにとっての『命の恩人』なんだよ……? 」
「……っ、」
自分にそのつもりが全くなかったとはいえ、こうしてアーサーの話しを聞き、自分の記憶と擦り合わせをすると確かに、結果として『命の恩人』と言われるようなことはしていたと認めざるをえない。
「…………そ、そんな深い事情……、知らな、かった……」
「うん、それはそうだろうね……」
「っ、でも……とにかく……良かった……」
「……うん……」
「俺が……『命の恩人』、て言われるのは……やめて貰えそうに……ないね……♪」
平静を装いたくて無理矢理な笑顔で言うと、亜朗が『命の恩人』を否定するような言葉を言わなかったことが嬉しかったのか、アーサーは「あぁ♪本当にありがとうアロ♪」と亜朗を軽く抱き締め……─────────────
「……『おれも、しのうとしたけど』というのは黙っておくよ……」
─────────────……と、耳元で小さく囁いた。
その瞬間、亜朗の体はビクッと震え、亜朗の瞳はすぐに体を離したアーサーを追う。
目が合ったアーサーは一際優しく亜朗を安心させるように微笑む。
11年振りの再会で。11年前だってたった1度遊んだだけの相手が、信用に足るかどうかを今判断するのは時期尚早だとは思う。
しかしそれでも、あの一言を言わずにいてくれたという事実に僅かにでもほっとしてしまうのは仕方のないこと。
「さぁアロ♪そういうことだから、テディの忠誠を受け入れて貰えないかな? 」
「ハ……ッ! 」
アーサーの言葉に亜朗の視線は慌ててアーサーからセオドアへと移り、亜朗の視線が自分から離れたのを見たアーサーはチラリと亜朗の後ろにそっと目を遣る。
……そこには、先ほどのアーサーの囁き声が聞こえ驚きに目を見開いて亜朗の後ろ姿を見詰めているノリとレジー、そしてレジーの背中の擦っていたイーサンの姿があった。
「…………は? 『しの』……? 『と』……『し─────────」
呆然としながらも口を突いて言葉が出そうになったレジーの肩をイーサンがグッ、と掴むと、ハッとしたレジーは口を噤む。
ノリ、レジー、イーサンの3人の視線は自分よりもだいぶ小さいのに、いつもどこか暖かい亜朗の背中を見詰める。
…………あの小さな背中に、一体どれほどの業を背負っているのだろう……。
『しのうとした』という文字の羅列は、『死のうとした』と、一文字だけ漢字に変換するだけでとてつもなく重く、苦しいものになる。
あの小さな背中が背負うべきものではないと思う。
…………なのに……、そのたった1文字の変換以外に『しのうとした』という6つの文字が意味するものが見付からない…………。
その言葉が聞こえていた3人の中では、『兄弟』と学園内ではほぼ公認されているほど亜朗と親しいノリは完全に言葉を失っていた。
そんなノリを心配したレジーが隣のノリの顔をそっと窺い見ると、元々色白な方であったノリの顔は今や真っ白と言えるほどに血の気が引いているように見える。
今にも倒れそう、という感じには見受けられないが、それでもレジーがそっとノリの腰の辺りに手を添えて支えようとすると、その手に僅かな震えが伝わってきた。
見た目にはほとんど分からないのはノリが堪えているからなのだろうが、直接手を触れているレジーには、ノリの足が細かく震えていることは伝わってしまう。
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