1006人が本棚に入れています
本棚に追加
レジーの様子から、ノリの今の状況を素早く察したイーサンがノリの後頭部に向けて小さく、「一樹……今は堪えよう……」と声をかけるとノリは「……っ、分か、てる……」と、拳を握り締めた。
聞きたいことは沢山ある。
『しのうとした』は『死のうとした』なのか。
『しのうとした』のは本当なのかどうか。
本当ならば何故なのか。
何故『しのうとした』のか。
それは亜朗の性格だからそんなことをしたのか。
それとも性格なんて関係なく、誰であってもそうしたくなるほど辛いことがあったのか。
だから幼馴染み達はあれほど過保護なのか。
同じように過保護な友人たちはソレを知っているのか。
『しのうとした』原因は解決したのか。
していないなら、今も同じことをしようとする可能性はあるのか。
……今でも……『死にたい』と思うことがあるのか…………。
亜朗の小さくも暖かな背中を見詰め、心の中で問いかけるノリの言葉は届くはずもなく。
その背中の主はアーサーからの『セオドアの忠誠を受け入れて欲しい』という再度のお願いに、慌てて自身も膝をついてセオドアの手を握り返した。
「テ、テディ……ぁの、俺─────────」
「アロ、俺は……っ、」
亜朗がかけた声を遮るセオドアの声が震えている。
アーサーの口から知らされたガルガンド家の辛い過去に対して震えているのではないことは、セオドアが自分の手を握った亜朗の手を握り返し、その手が大きく震えていることで何となく分かってしまった。
「……なに……? どうしたの……? 」
手を握り返してきたセオドアの力の強さと震えに、亜朗も何かを感じ取り未だ顔は上げないセオドアの顔を覗き込もうとする。
「俺は……っ、」
「うん……」
「……俺が……、ガルガンド家の養子に入ったのには……理由があって……」
わざわざ今それを言うことが、この全校集会でアーサーとセオドアがサプライズで現れる前に大地から『頭の良かったセオドアは、より裕福なガルガンド家でより良い教育を受ける為』と全生徒に聞かされたいう理由以外の────────もしくは、本当は別の理由があるということ。
「ガルガンド家の遠縁の親戚の子爵家の四男として生まれた俺は……1歳の時に……、両親を事故で亡くした……」
「っ……!? 」
亜朗だけではなく、この場にいる全員が息を飲む。
「……3人の兄上は当時……、長兄が18歳で次兄が9歳、俺のすぐ上の兄上が4歳……」
「幸いなことに、長兄は成人していたこともあり、家督はすぐに長兄が継ぎ、家門がなくなることは避けられた……」
「っ、それでも……っ、両親をいっぺん亡くしたとあって……長兄が多くの苦労をすることとなるは分かり切っていた……」
「……その上、手のかかる子供が3人もいるとなると……、ましてや俺は1歳の赤子だ……」
そこまで言えば、セオドアがガルガンド家の養子になった本当の理由を誰もが理解できた。
「……子爵家とはいっても裕福ではなかった……。赤子の面倒を見られる乳母もいかなった……」
「……テディ……」
亜朗がそっと、しかし力強くセオドアの手を再び握り返す。
「……それでも長兄が、兄弟まで離れ離れにはできないと、1年は頑張ってくれた。しかし……」
「……ガルガンド家を頼ったのは仕方のないことだと……、事実を聞かされた時も、今もそう思っている。兄上を恨んだことなどない……」
「むしろ感謝をしている。俺の将来を想い、より良い教育を受けられるようにと……」
頭を下げている為、セオドアの表情は見えないが声だけでもセオドアの言葉に嘘がないことは分かる。
最初のコメントを投稿しよう!