*** アーサーとセオドア side others ***

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先日、大地からは養子の件はセオドアの父が望んだことだと聞いていたが、実際は違ったらしい。 壇上にいる大地も初めて聞いた、という顔をしている。 両親が亡くなり、小さな子供を育てられなくなった兄が弟を養子に出したという事実は貴族の中でも外聞の悪いことだとすると、そこを隠すのは当然なのかも知れない。 亜朗はゆっくりと、子供をあやすようにセオドアの手を撫でる。 「……ガルガンドのルーベン父上も、アマリア母上も……俺のことを本当の子供のように愛してくれた……。アーサーも『ボクの弟なのに生まれた時はどこに隠れていたの? 』と拗ねたり……『テディとボクはきっと生まれる前から仲良しって神様が決めてくださってたんだよ♪だってボク、こんなにテディのことが大好きなんだもの♪』と抱き締めて、くれて……っ」 その可愛らしい台詞を聞き、亜朗や何人かの生徒から暖かい目を向けられたアーサーは、恥ずかしそうにはにかみながらもセオドアの背中をポンポン、と優しく叩く。 「ありがたいことに……、周りの同年代の子供より少し聡明であったのもあり、2歳で養子に入った俺は、自分がガルガンド家の本当の子供でないことは……なんとなく感じてはいた……」 「うっすらと記憶にあった3人の兄上がいないこと。兄上の『テディ、ごめんね……』と泣いて俺を抱き締めてくれた記憶……」 「それらをルーベン父上とアマリア母上に話したらすぐに本当のことを教えてくれ、更には兄上達と連絡を取れるようにしてくれた……」 「アマリア母上が、『手紙を沢山書きましょうね♪絵も描いて一緒に送りましょうか♪テディの字や絵が上手になってゆくのを見て、お兄ちゃん達にもテディの成長が分かるようにね♪』と、沢山の綺麗なレターセットや……色鉛筆、絵の具をプレゼントしてくれて……。俺は本当に幸せだった……」 うん、うん。とセオドアの話しに亜朗が頷いているのは、微かな揺れから伝わっているだろう。 「ただ……っ! 俺が1歳の時に実の両親がなくなり、4歳の時にはアマリア母上が亡くなった……」 亜朗は膝をつき、ずっとセオドアの手を擦っている。 「…………俺は……、当時の俺は……自分が呪われているのでは、と……」 「……テディ……」 フルフルと亜朗が首を横に振る。 「……俺には『親殺し』の呪いがかっていて……、両親を亡くして長兄は苦労をかけ、アマリア母上を亡くしたルーベン父上は心を病んだ……」 「………………も、もしかしたら……自分は周りの人間を、ふ、不幸にする呪われた人間、なのでは……な、ないかと……っ」 セオドアがその当時そう思っていたことを、アーサーも初めて聞いたのだろう。 アーサーが驚いたように目を見開いた様と、オリヴァーとジョシュアも目を見開いて固まってしまっていることから、セオドアのこの告白が予定外のことなのだと分かる。 それでもアーサーは冷静さを失わない。 ゆっくりと片膝をついてセオドアの肩を抱いて寄り添い、「テディがそのような人間であるはずがないだろう……? こんなにも可愛くて愛しいたった1人の俺の弟だ……」とセオドアの頭にキスを落とす。 アーサーからダイレクトに否定と愛情を貰ったセオドアは、「ヒッ……ク」と小さな嗚咽を漏らす。 「……そ、そぅ、思って……いた頃、に……今度はルーベン父上まで……っ、し、『死にたい』と……っ」 「っ、ぉ、俺はやはり……人を不幸にする人間なのだと……」 「あの時の俺の涙は……っ、自分自身への絶望もあった……。睦子おば様に言った『お父様は悪くない』という言葉の本当の意味、は……『俺が悪い』『俺がいなくなった方がいい』のだ、と……」
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