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そう言ったセオドアは頭は下げたまま自分の手を握る亜朗の手を辿り、縋り付くように腕を掴むと、亜朗の胸に頭をほんの少しくっつける。
「……だけど……っ、アロが救ってくれた……っ! ルーベン、父上が……生きることを、選んでくれたから……っ! 」
「……それまで心の中にあった、重く……目を背けても、気にしないようにしても、なくならず……、ずっと俺の心に付き纏い……『お前は人を不幸にする人間なんだ』と囁きかけてくる、呪いのようなそれが……」
「……アロが父上に言った『かなしくさせたくないひと』の為……『ないてほしくないひと』の為……『がんばるってきめたよ』という言葉……」
「俺は……っ、俺は呪われているの、だと……1人嘆くばかりだった俺に……っ、アロのその言葉が勇気を与えてくれた……っ! 呪いのようなそれに立ち向かい、そんなことはないと……! 前を向く力をくれた……っ! 」
そう言って、セオドアはより深く頭を下げる。
「っ、……りがとう……、本当にっ、ありがとう……! アロ……っ! 」
セオドアの言葉に、セオドアの隣にいたアーサーも亜朗を真っ直ぐに見詰め、ゆっくりと口を開く。
「アロ……俺からもお礼を言わせて欲しい……。テディが自分自身にかけていた、呪い……その呪いから、俺の……っ、ただ1人の弟を……弟の心を、救ってくれてありがとう……っ」
瞳を潤ませ、セオドアの隣でセオドアよりも深く頭を下げるアーサー。
そんな2人を見た亜朗は、自身もその大きな瞳に涙を湛えながらもブンブンと首を大きく横に振る。
「ぉれの……、俺の言葉の力じゃないよ……? あの時の俺の言葉……テディがしっかりと掴んだからだよ……? 」
「『掴んだ』……? 」
「うん、そう。言葉は目に見えない分、しっかり聞いてないと流れていっちゃうでしょ……? 」
「……ぅん……」
「テディはきっと、自分の心の奥にずっと否定したいって気持ちを持ってたはずだよ? 元々『否定したい』って気持ちを持ってたから、テディは俺の言葉を流すことができなかっただけ……」
「……そぅ、なのかな……」
呟くようなセオドアの言葉に、頭を下げたままのセオドアから見えないのは分かっていても、亜朗は笑顔で大きく頷く。
「うん♪俺の言葉はキッカケだったかも知れないけど、テディの気持ちと俺の言葉を紐付けてしっかり考えたのは、他の誰でもなくテディ自身なんだよ? だからテディはちゃんと勇気を持ってたし、前を向く力も持ってた。……ってことだと思うんだ? 」
「……っ」
「……ね? 」
『そうだよね』と念押しされるように言われれば、セオドアは自分の中にあった『呪いな訳がない』、『きっとただの偶然』、『周り全てを不幸にする人間なんていない』……そう思いたかった当時の自分を思い出す。
『思いたかった』自分は確かにいた。
しかし思うだけで何も行動しなかった────────いや、できなかった。
何をどうすれば、自分は呪われてはいないのだと、周りの全てを不幸にする人間ではないのだと証明できるのか、全く分からなかったから。
………………でも……今なら分かる。
自分1人でどうにもできないなら、誰かの助けを借りれば良かったのだと。
アーサーに、父に、自分の思いを伝えれば、きっと間違いなく『そんなことはない』、『呪われてなどいない』と言ってくれただろう。
…………そう言ってくれたはずだと、確信を持てるほど…………愛されていた……。
であれば、アマリアが亡くなった時、父にそのことを伝えていたら、父はきっと自分に心を砕いてくれたはず。
母の死のみに心を囚われることなく、詐欺にあうこともなく、きっと自分に優しい言葉をかけてくれたはず。
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