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じっとアーサー達の様子を見守っていたレジー達。
アーサーとセオドアよりは長く、実際に動き喋る亜朗を見てきたレジーはその珍しい亜朗の対応にハッとする。
そして次の瞬間にはレジーはザッ! と勢い良く、アーサー、セオドア、亜朗の3人に対して片膝をついて頭を下げた。
レジーの行動に驚いたのはアーサーとセオドア、オリヴァーとジョシュアの4人以外の、講堂内にいる全員。
「レ、レジー先輩……!? 」
ギョッとした亜朗が反射的にレジーの名前を呼ぶと、レジーは一層深く頭を下げる。
「アーサー様セオドア様、そして桜岡く────いえ、桜岡様」
「ひょえ……っ!? ななな、何故っ!? ですかっ!? 」
「アーサー様とセオドア様が婚約を望まれるお相手です。つまり御二人の『婚約者候補』ということにございます」
亜朗に対して丁寧に答えたレジーのその言葉を聞いたイーサン以下他の貴族達はハッとし、慌ててレジーと同じように跪く。
オリヴァーとジョシュアの2人にとっては、飽くまでこの場の他の貴族に合わせた行動であり、本来なら亜朗と出会った時点でこうしたいと常々思っていた行動であるのだが。
「ぅぎゃっ!? な、なん……っ!? 」
「桜岡様はアーサー様もしくはセオドア様の婚約者となり得る御方。侯爵より爵位が下の我々には、桜岡様は自身よりも身分の高い御方となりますれば、このようにすべきなのでございます」
「いやいやいやいやいやいや……! 俺はどっちとも婚約なんてしませ───────」
「「ぇ……」」
レジーに向かって『婚約者候補』にすらならないと否定をしようとすると、たったの一言にも関わらず如実に『悲しみ』と『絶望』を漂わせる「ぇ……」の声が2つ亜朗の耳に届く。
今の会話の流れからその2つの声の主が誰でと誰であるかは、分かり切ったこと。
亜朗はレジーに向けていた視線を声の主達に向ける。
「考えてすらくれないのか……? 」
悲しそうな表情のセオドア。
「日本人は『一旦預からせていただきます』は得意でしょ? だから一旦預かってくれない……? 」
悲しそうな表情の中に圧力を含ませるアーサー。
しかし、若干含まれている圧力に気付いたとて、『悲しそう』な表情をされてしまっては、亜朗は「婚約はしませんよ! 」と言おうとした口を思わず閉じてしまった。
それを見逃さず、レジーが「畏れながら」と亜朗を見上げる。
「桜岡様はアーサー様とセオドア様からの告白を嫌がっているようには見受けられませんでした」
「ぅぐ……、そ、それは……人からの好意なわけなので……」
本心では、自分のような人間に向けて貰えて良い好意ではないと思ってはいる。
しかし、自分がそう思っているからといって、無下にして良いわけではないことも理解している。
「桜岡様。そうであれば、貴方様がアーサー様かセオドア様の婚約者となる可能性はゼロではないと、ボク達はそう思っております」
「ぃや、ほぼゼロで────────」
「「『ゼロ』、なのか……? 」」
またも『悲しみ』と『絶望』に満ちた声。
亜朗は思わず「ぐぅ……」と唸って言葉の先を紡ぐのをやめてしまう。
───────────その様子を、チラリと確認したオリヴァーとジョシュアはそっと互いの視線を絡めてほくそ笑む。
2人とアーサーとセオドアにとって、ここまでの流れは想定していた通り。
セオドアの『呪い』の話しだけは想定外であったが、結果は予定通りのもの。
レジー達がいる前で、彼らより位の高い侯爵であるアーサーと、そのアーサーを献身的に支え、今やもう1人の当主であると言えるセオドアが亜朗を慕い、『婚約者』にと望んでいることを伝えること。
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