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「……アロ」
「うん」
「アロのね? 目の下に隈ができてる。ということは睡眠不足なのだろう? 睡眠不足の時は体調を崩してしまいやすい。そんな時に、わざわざ俺とテディに時間を割いて貰うのが申し訳ないんだ」
「体調は大丈夫だよ? だから折角なんだし……」
言い縋るような亜朗に、少し嬉しそうではあるもののアーサーは亜朗の手を取り、まるで小さな子供に言い聞かせるように優しい声色で言葉を紡ぐ。
「アロがそう言っても心配なんだ。だから今日は気安い人達と気を遣うことなく食事を済ませ、できればいつもより早く寝て欲しい」
「……アートとテディと話ししたい」
「うん、俺達も同じ気持ちだよ? でもね、きっと久々の再会ということもあって話しが盛り上がってしまいそうじゃない? 」
「楽しいと思うよ……? 」
「そうだね♪きっと楽しいね♪……でもね? 俺はきっとその間ずっと、アロの睡眠時間が少なくなってゆくことが気になってしまう」
「……ぅん……」
「だから、アロの睡眠不足が改善されてその隈が消えたら、その時には一緒に食事をしながら沢山の楽しい話しをしよう? だから今日は……ね? 」
「……うん、分かった……約束ね? 」
「あぁ♪モチロン約束しよう♪きっと近い内に俺とテディとアロは楽しい時間を共に過ごすよ♪」
笑顔でそう約束したアーサーに、亜朗も笑顔を見せる。
「アロ、その睡眠不足の原因は分かってるのか? 俺、イギリスからリラックスできるアロマ持って来たんだけど、必要ならプレゼントするよ? 」
「ぁ、ううん大丈夫! ここ最近急に寒くなってきたから寝付くまで時間かかっちゃってるだけだから」
セオドアに原因を聞かれた亜朗は嘘の理由を伝える。
これは千尋達にも同じように伝えていた。
亜朗の隈に気付かない訳がない人達に睡眠不足の本当の理由は言えず、もっともらしい理由を考えたのだ。
本当の理由は絶対に誰にも言えない。自分の胸の内を知られたくない。
睡眠不足のせいで思考が悪い方に向かってしまう。
色々と考えすぎて眠れなくなる。
悪循環だと分かっていても、なかなか抜け出せない。
でもそろそろ本当に何とかしないと、と思ってもそれすらもストレスとして負担になっている。
悟られないように気を付けて行動をしているが、体も睡眠不足のせいで重たく感じる。
誰にも相談できないまま。
亜朗の睡眠不足は改善の気配はない。
「ぁ、それなら♪アロ、ちょっと待ってて♪」
明るく声をあげたセオドアが談話室に走って行くが、すぐに何かを持って戻って来た。
「アロこれあげる♪」
「これ……湯たんぽ……? 」
「そう♪買い物行った時、ジョシュアが最近急に寒くなってきたから、持っておいた方がいいって言ってたから買ってきたんだ♪」
「じゃあコレはテディのでしょ? 」
「大丈夫大丈夫♪俺筋肉量多いから全然寒くないし♪ホラ、俺今着てるのコレだよ? 」
そう言ったセオドアは、パッと両手を広げる。
「ぁ……、半袖……」
亜朗の言う通り、確かに皐月の寮の暖房設備がしっかりしてはいるとはいえ、セオドアが着ている物は半袖のシャツだった。
亜朗だけではなく、生徒会のメンバーも正直少し引いたのだが、それは決して顔には出せない。
「ジョシュアが気遣ってくれた訳だから一応買ったけど、多分俺には必要ないと思う。だからコレはアロにプレゼントするよ♪……まぁ、プレゼントという割には素敵なリボンの1つもないのは申し訳ないんだけれど……」
「……ふふ♪大丈夫♪すぐ使うからリボンはない方が助かったかも♪」
「!! うん♪受け取ってくれてありがとう♪」
『すぐ使う』と言ってくれたことに、セオドアは本当に嬉しそうに笑った。
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