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この場にいる全員がそれを分かっている。
勿論オリヴァーとジョシュアも分かってはいるのだが、それでも『悲しい』と言われて狼狽える。
「あぁ……可哀想なアート……」
「テディもだろう……? 」
「あぁ、そうさ……。同じ学園に通うならば、オリヴァーとジョシュアとはきっと友人のように……と……そう思っていたのに……」
「「ぁわわわわわわわ……! 」」
「そうだね……、同じテーブルでご飯を食べ、アレも美味しいコレも美味しいと……。そんな関係を楽しみにしていたのに……」
「所詮、叶わぬ夢だっというわけか……」
「そのようだ……。あぁ……! 悲しみで胸が押し潰されそ──────────」
「「い、いっただきまーーーーーーすっ!! 」」
オリヴァーとジョシュアの声が響くと同時に2人は物凄い勢いでご飯を食べ始めた。
あまりの態度の豹変ぶりに、ポカン、とする食堂内の生徒達。
「アーハーはまヘオボアはま! コ、コリェ美味ひいべすね! 」
「ぼ、ぼ二人も早く食べまひょう! 」
口いっぱいに食べ物を詰めながらアーサーとセオドアに声をかける。
そんな2人を見たアーサーとセオドアも再び席に着く。
そして、アーサーは2人に柔らかく微笑んだ。
「……ワガママを言ってゴメンね……? でも、皐月学園にいる間だけは……。俺から、大切なオリヴァーとジョシュアへの……『お願い』だ……♪」
「「っ……! 」」
『大切』だと。
これは『命令』ではなく、『お願い』だと。
そう言われた2人の瞳にぶわっと涙が溢れる。
「「……ひゃ、ひゃい……っ」」
勢い良く頷いたジョシュアの髪が頬にかかると、セオドアが手を伸ばしてその髪を耳にかけてあげる。
ピクッ、と反応してセオドアを見たジョシュアに、セオドアは「こういうのもいいだろう? 」と言って笑った。
「ジェ、ジェオドアざま゛〜ぁ……! 」
瞳に溜められなくなった涙が、『ジャバっ』という擬音語が聞こえてきそうな勢いで流れ落ちると、セオドアはハンカチを取り出し、クスクス笑いながらジョシュアの涙を拭って頭を撫でる。
「なんか弟ってこんな感じなのかな? 」
「テ、テディずるいぞ! 俺もジョシュアの頭を撫でたい! 」
「アーサー様! 俺の頭ではいかがでしょう!? 」
「いいな! よし! オリヴァーの頭を撫でる! 」
「どうぞっ!! 」
「ありがとう!! む! オリヴァーの髪の毛は見た目より柔らかいな! なかなか良い撫で心地だ! 」
「お褒めに与り光栄至極にございますっ!! 」
「「「「「「「「「ぁははははははははっ♪」」」」」」」」」
何故かおかしな展開になったことと、やはりアーサーとセオドアが講堂で見た通りの優しい人物だと分かったことで安心したのもあり、食堂内が笑いに包まれた。
「どれどれオリヴァー♪俺にも撫でさせ──────」
「やめろ真っ! 俺の頭を撫でる権利を有するのはアーサー様とセオドア様と母親だけだっ! 」
「「ぁははははは♪」」
真もオリヴァーの頭を撫でようとすると、鬼のような形相で叫んだオリヴァーに、今度はアーサーとセオドアが大笑い。
「ぅーわ♪めっちゃキレられたんだけど〜♪」
ケラケラと笑う真と、「残念だったな♪」と笑う朱羽がますますアーサーとセオドアに好感を持つ。
同時に、食堂内にいた生徒達も好感を持った。
こうして、アーサーとセオドアに対する生徒達の印象はますます好いものとなってゆく。
すると当然ながら、アーサーとセオドアの恋を応援したくなる者も出てくるわけで。
これに関しては作戦でも何でもなく、本当にアーサーとセオドアの人柄の成したことであった。
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