*** ランチタイム ***

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…………あっさり行っちゃったなぁ……。 翔季先輩の所へ向かって行った釉の後ろ姿を見詰めていたら、一緒に向かった湊斗が振り返る。 一瞬ギクッとしたけど、振り返った湊斗はチョイチョイ、とチカ会長達の方を指差した。 『待たせてるよ』という意味だと理解し、俺はコクンと頷いて見せる。 ……そうだ……、俺も行かなきゃ……。 そう思うのに、足が重たい。 湊斗から、景ちゃんの勉強会の時に弥太ちゃんが「共依存みたいなアイツらが、いつか1人で自分だけの道を歩いて行くとしたら……1番早いのは釉なんじゃねぇかな……」って言ってたって聞いた。 そしてついこないだは、釉が『ほぼ告白』をされて、しかもそれをきちんと受け止めていることを知った。 今までの釉なら即お断りしていたのに、そうしていないってことは、釉にとっても真剣に考えてもいい相手だってことなんだと思う。 釉のことをきちんと理解してくれていて、色んな部分を引っ括めて見てくれてる人。 …………ってことを言いたかったけど、言わなかったのは、俺が言うときっと釉は「大丈夫! ちゃんと断るからね♪」って何も考えずにお断りしてしまいそうな気がしたから。 俺がその話しに反応すると、釉はきっと一瞬で俺のことで頭がいっぱいになって「亜朗もしかしてヤキモチ!? 」とか喜びながら言いそうだもん……。 そしたら絶対に断っちゃうと思ったから言わなかった。 自意識過剰かも知れないけど、俺の不用意な発言のせいで、釉の頭の中から相手の真剣な気持ちがスポーン! って抜けたらと思うと言えなかったんだよね……。 …………それに……弥太ちゃんの言葉通りになりそうな予感もした……。 釉はその相手ときっと恋愛になるだろう、って予感が俺にはあった。 根拠らしい根拠にはなるかは分からないけど、釉の態度が今までと違うっていうのは、俺からすると根拠と言える。 ……だから……、つまり……。 釉が俺から離れて行くことがほぼ確定したようなもの。 そう思った時、あろうことか俺は『寂しい』……そう思ってしまった……。 薄々自分の覚悟の足りなさには気付いてたし、そんなんじゃダメだと思っていたけど、可視できないモノを鍛えるのは難しい。 というか、見えたとしても心を鍛えるのはどうしたらいいのか、そもそも分からない。 もういっそのこと、釉にハッキリと『釉が俺を好きっていうのは、親愛であって恋愛の好きじゃない』って言ってしまって、釉と離れようと一瞬考えたこともある。 けど、絶対に釉は『俺の気持ちは亜朗が決めることじゃない』とか言って否定してくるだろうし、その通りだとも思うから結局言えない。 入学したばかりの頃、千尋と三つ子に好きだと迫られ、自分もそうだと返したことがあった。 けど、今なら分かる。釉が本当に離れて行く未来が近付いた今なら、俺は『そう』じゃないってハッキリ言える。 釉のことも、千尋のことも。 想も、葉も、湊斗のことも『そういう意味』では好きではない。 ……でも……あれ以来、千尋達もあの時のように迫って来ないから、『俺はそうじゃない』とも伝えられていない……。 言ってしまったら……もし伝えてしまったら……、一斉に皆が離れて行くんじゃないか、って思ってしまって伝えられない……。 それなのに、三つ子が離れて行く可能性のある出来事が着々と近付いてきている。 それは三つ子に弟が妹が産まれること。 あの喜びようなら、きっと俺への関心は今より薄くなる。 一時のことではなく、きっと産まれたその瞬間から徐々に薄くなっていくだろう。
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