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1:幼馴染の二人
そのカフェにおいて、カウンター奥の座席は暗黙の了解の内に、予約席となっていた。
カフェ「鏡の女王亭」の看板娘、カティの幼馴染のための。
一見さんの客──とはいえ、ここは閉鎖空間ドーム。見知った顔がほぼ大半であるが──がふらりとやって来て、その席を所望したとする。
華奢で気だるげな女性店長は肩をすくめ、そして清廉さと色香を併せ持つカティは悩まし気に眉を下げ、しかし揃ってこう言うのだ。
「すみません。ここは常連さんの、お気に入り席になってまして」
気だるげ店長のある種堂々とした言い方と、そしてカティの何とも申し訳なさそうな表情のお陰で、案外角は立たない。
代わりに通りに面した、眺めのいい席を用意されれば気分もすっかり上向きになり、店特製のキッシュを食べれば至福のひと時となるものである。
そうしてやんわりと座席を守った頃、その予約席の主が現れる。
眼鏡をかけた、黒髪・褐色肌の細身の青年だ。
いかにも文学青年、といった風情の彼は、カティを見つけると穏やかに微笑む。
「席、空いてるかな、カティ」
琥珀色の瞳も、甘く細められた。
優しい静かな声に、カティも頬をほんのりと染めてうなずく。ふっくらした唇が、緩やかに弧を描いた。
「うん。空けてもらったよ、リー兄ちゃん」
「ありがとう」
そうして視線を交差させ、二人はまたはにかむ。
彼らの発する甘やかな空気に、店主も常連客も、微笑まし気に相好を崩す。
カティとリー──先述の通り、二人は幼馴染だ。
今は、まだ。
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