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彼女は可憐であった。
それでいて儚かった。
それは、触れれば破れてしまいそうな蝶の羽のように。
それは、手を伸ばせば消えてしまいそうな霧のように。
だからこそ僕も、心惹かれたのだろう。
まるで風のように、日々が過ぎ去る。
彼女との時間は唯一、世界が美しく見えた。
夕暮れ、蝉の鳴く時間。
この時間帯は空が一番綺麗に見える。
しかしこの日は、僕の気分のように、空が淀んで見える。
放課後、歩きなれた家路をたどりながら、僕は虚ろな目で事を告げた。
両親が離婚すること。僕は、母に連れられて東京に行くと言うこと。
視界が滲む。所々つっかえて、うまく話せなかった。
それでも彼女は、黙って聞いてくれた。涙を溢しながら話を聞く彼女は、この世のものとは思えないほど、美しい。
こんなことを思うときではないとわかっていたが、考えずにはいられなかった。
そして僕達は、約束をする。
毎年、彼女の誕生日に、公園の木の下で会うこと。
年に一度だけだが、会うことはできる。
僕がそう言って励ますと、彼女は、笑った。
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