彼女は幸せだったのか?

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 年を重ねる度に、彼女は美しくなる。  花のように甘い香りを出す彼女には、悪い虫がよくつくようだ。  その虫を側で払ってあげられないことに嫌気がさす。  伝えると彼女は、大袈裟よ、と笑う。  僕にとっては大袈裟でもなんでもないのだが、彼女が幸せに生きていけるのならば、それで良かった。  僕が東京に出てからもう四年がたった。  あの日、十五歳だった彼女ももう、立派な大人だ。  その顔から幼さは消えたが、しかし、その表情は彼女が彼女であることを明確に表している。  「四年たっても変わらないな。」言葉が自然と漏れる。  彼女は僕の素直な感想をスルーする術が身に付いたらしく、そうね、と一言言うと、口を閉ざしてしまった。  昔からそうだ。彼女の整った顔立ちを見ていると、なぜだか非常に哀しい気持ちになるのだった。哀しくなって、この世に一人きりになったかのような錯覚に陥れられる。  だが、決して目を離すことはできない。哀しみという感情の中に隠れた、微細な愛情と、暖かさを感じるからだ。  不意に、彼女をこのまま抱き締めてしまいたいという衝動に刈られる。  が、そんな衝動を行動に移すことはできない。してはいけないのだ。  伸ばしそうになった手を握り締める。  無理矢理話題を逸らそうと、口を開いた。  「ここに永住するつもり?」僕の元へ行くと言ってほしかった。つい、言葉が刺々しくなる。
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