0人が本棚に入れています
本棚に追加
「どこまで行きます?」
「あら、送ってくれるの?珍しいわね」
「ナビ、最新に買いかえたんでどこまででもお伴しますよ」
「それじゃあお願いしようかな」
岡本が助手席のドアを開けながら
「どうぞ」と、促した。
「後ろでいいわよ」
後部座席にゆっくりと乗り込み、鞄から資料を取り出すと、ペラペラとページをめくった。
私はフリーの心理カウンセラーをしている。今日面会する女の子のプロフィールを頭に叩き込む。
相談者は若い女性が多い。今日面会する女の子はまだ6才の女の子。半年位前から彼女の回りで不可思議な出来事が頻繁に起こっているという。
あの家が火事になると言えば数時間後に本当に火事になる。また、すれ違う人の中から今日事故にあう人を的中させたりなど、最初は偶然が重なっただけだと思っていたが、祖母が亡くなる日まで当てられると偶然とは思えない。
彼女が入所している施設長から心理カウンセリングを依頼され、向かっているのだ。
『200メートル先工事中のため迂回してください』
カーナビからの指示で岡本は迂回路へハンドルを切った。
「道悪いんでちょっとガタガタします」
結構ひどいでこぼこ路で、車は上下左右に揺さぶられる。5分程走っただろうか、ようやく幹線道路に出た。しかし、ほっとしたのも束の間、今度は事故のため通行止めだ。
「どうします?」
やれやれと言った口調で岡本が振り返った。
「事故なら仕方ないじゃない。先方に少し遅れるって電話するから通れるまで待ってようじゃない」
カバンからスマホを取り出し先方に連絡を入れる。
1時間程車内で待機してただろうか、ようやく通れるようになり、ゆっくりと車は進み始めた。
小高い丘へと続く一本道へ差し掛かる。しばらく走っていると、ガタガタ、ガタガタと、車が激しく振動し始めた。
「な、何?どうしたの?」
「タイヤがパンクしたみたいです」
岡本が平然と言ってのける。
「大丈夫なの?」
「大丈夫ではないです。でも、あとちょっとなので頑張ってみます」
「頑張るって...」
何をどう頑張るのかは知らないが、とりあえず岡本に任せてみることにした。岡本は一度外へ出てスペアタイヤに取り替え再び運転席へと戻った。
しばらく走ると視界が開け、古びた洋館が目に飛び込んできた。以前は寄宿舎として使用されていたそうだ。
入り口付近に車を付けると、洋館の大きな扉が開き
品の良さそうな婦人が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。片桐様」
後部ドアを開けゆっくりと足を地面に付けたが、先程のひどい揺れのせいで足下がふらついた。
「大丈夫ですか?」
婦人の肩を借り洋館の中へ入ると、数人の子どもたちがこちらを睨み付けるように視線を向けてきた。
「どうぞお気になさらずに」
婦人は言いながら奥へと歩を進めた。
通されたのは大きな食堂だった。
精巧に作られたこの町のジオラマが中央に陣取っていて、その周りをテーブルが囲むように並べられている。
「おぉー!凄い凄い」
岡本がはしゃぎながらジオラマへ近づく。
(本当、男の子ってこういうの好きよね)
「早速ですが、あやかちゃんはどこに?」
言いながら婦人の視線を追った。
「美月さん、ちょっと...」
岡本が、怪訝な表情で私に声を掛けてきた。
「これ、見て下さい」
岡本に促され、私もジオラマへ近寄った。
「これ何かおかしくないですか?」
「何が?」
言いながらジオラマに視線を落とすと、洋館の前に停まっているミニカーのタイヤがない。また、この洋館へと続く道路の途中で、2台の車が道を塞ぐように重なり合ってる。さらに、その手前では工事中の看板が立てられていた。
完
最初のコメントを投稿しよう!