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1 ふたつの月がでる夜
ぼくのお父さんは、灯台守だった。
灯台は家からずっと遠い場所にあって、ビーグルグース町、魔法使いの村、ブルーグラス山を越えた場所にあった。
灯台守が家を出るのは、夜空に月がふたつ上がった晩だと決まっていた。だから、冬になると、僕は毎晩カーテンのすきまから月を確かめたものだ。
どうか、月がひとつでありますように!
そんな願いもむなしく、お父さんが旅立つ日はあっという間にやってきてしまった。
月がふたつでると、地面におちたやわらかな雪に光が反射して、ランプがなくてもよく見える。お母さんは使い古した緑のブリキポットに、たっぷりとシチューを入れてお父さんに渡した。
どんなに遅い時間でも、ぼくとお母さんはかならずお父さんを見送った。お父さんが豆粒より小さくなって、悪魔よけの鈴が聞こえなくなるまで。
次にお父さんが帰ってくるのは夏だ。
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