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「ありがとう……さあ、少し遅くなったが、お昼を食べに行こうか」
「うん。父さんはどこがいいの?」
「そうだな、やっぱり蕎麦が――」
「父さんってば、外食になると蕎麦ばっかりだ。他も食べようよ」
私のリクエストを主真が即行で潰してくる。しかし、
「あー、悪いが主真、俺も今は蕎麦がいい」
「えっ、詠士叔父さんも?!」
「あっちだと俺たちが満足できる蕎麦がないんだよ。和食も現地の味付けにアレンジされてるし……薄味の和食が恋しい」
援護射撃をもらい、私は詠士と顔を見合わせて互いに頷き合って結託する。
二対一。ため息をつきながら主真は肩をすくめた。
「分かったよ。父さんたちのために今日は我慢するよ」
「すまないな、主真」
「いいって父さん。あっちに行く前よりも元気そうで良かった」
私と詠士の顔を見て、主真がにっこりと笑う。
ささやかな日常のやり取りだが、私たちの関係を知った上でのことだ。
これが当たり前のことだと未だに思えず、私の荷物を運んでくれる主真に感謝するばかりだった。
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