走り続けた男

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走り続けた男

 命が目の前で消える――。  その瞬間をもう見たくなくて、私は必死に戦ってきた。  全身に激痛が走り、息が詰まり、目の前が暗くなろうとも、私は手を伸ばして命を掴む。  力が足りないならば私の命を燃やそう。  猛火だろうが、土砂だろうが、吹雪だろうが負けはしない。この手が届く命はすべて救う。  こんな生き方を君は望んでいないかもしれない。  しかし君が逝ったあの日が、私の背をずっと押し続ける。 『私なんかのために、貴方の時間を、ありがとう……』  私と結婚し、主真を生んで間もなく散ってしまった妻――沙綾。  彼女は生まれつき病弱だった。  自分を卑下しないでくれと伝えたくて、君が君を誇れるように、私は沙綾を失った時間、命を賭して駆け抜けた。  これまで救助した人数は知らない。数える時間がもったいないから。  少なくとも所轄の局では、隊を結成以来、一番多くの要救助者を確保し、救った隊長だと言われるようにはなった。  四十を超えて限界が見えてきたけれども。  それでも私は――。
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