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「ストレスチェックねえ。どんな内容だっけ。上司はどれくらい頼りになりますか、とかそんなやつだったかな?」
エルドレッドはレオノーラの正面、自分の席に戻り、長い足を組んだ。上司の言葉で、レオノーラはようやく「ストレスチェック」なるものを思い出した。少し前に個人の電子メールアドレス宛に送られてきた簡易テストだ。昼食を詰め込みながら適当に回答してしまったので、そんなものがあったということすら忘れていた。その結果が芳しくなかったので医者に行けと、そういうことなのだ。
「数ある項目の中からピックアップするのそれですか? 仕事が多すぎると感じるーとか、時間内に仕事は終わりますかーとか、頭痛がしますかーとか、普通の項目いっぱいあったでしょ。エルドレッドさんも受けたんですよね。頭どうなってるんですか」
「上司は個人的な話をどれくらい聞いてくれますか、もあったかな。聞いてあげるよ、いくらでも。それじゃ、初恋から行こうか」
「セクハラ反対」
ベテランの俳優のように完璧な微笑みだったが、吐いている台詞が最悪である。
まともに相手をしていたらいつまでたっても進まない。レオノーラは、上司の発言を一刀両断してメールを読み進めた。
「でもこれ、勤務時間中じゃないと面談は受け付けませんって書いてありますけど。本当にいいんですか?」
「いいんじゃない?」
一秒でも長く働けと圧力をかけてくる普段とは真逆の発言に、レオノーラは耳を疑った。
「いいんですか? 優しい! 遂に心入れかえてくれました? それとも変な物食べました? 胃薬差し上げましょうか?」
「それ、上司の許可いらないやつだから。忙しいから行けませんでしたなんて口が裂けても言うなよ。僕の評価に関わるから」
儚い夢だった。
「もうちょっと快く送り出す態度とってくださいよ。外面だけでも。心にもなくても」
「そんなこと言うなら君も上司に対する口の聞き方考えたら?」
「尊敬できる人ならそうするんですけどお」
「僕のどこが尊敬できないって?」
「全部です」
「素直じゃないなあ」
謎の自信、本当に鬱陶しい。
「そもそも、お気づきかどうかわからないので念のため申し上げておきますと、このストレスチェックにひっかかったの、明らかに、あなたのせいなんですけど?」
「そうなの?」
「もう定時が五時だったか五時半だったかも忘れるくらい、激務なんですけど?」
「六時じゃなかったっけ」
「しれっと定時のばして残業代さっぴこうとしないでくれません?」
レオノーラは上司とつまらない問答を繰り広げながらも、苦労してメールを最後まで読み、返信を送った。
ご連絡ありがとうございます。産業医の先生との面談をぜひお願いしたいです。先生のご都合の良い日時をいくつかあげていただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
たったこれだけ書くのに三十分かかるってどうなの。
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