告白の返事

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あの後ひたすら考えている途中で洋平は睡魔に襲われ気づいた時には18時半を過ぎていた。 「嘘だろ!?もうこんな時間!!」 声に出して慌ててスマホに目をやると30分前に龍二郎から連絡が入っていた。 『10分前には公園着くわ』 洋平は慌てて返信を打つ。 『寝てた!急いで向かうから俺も同じくらいには着くと思う』 洋平は慌ただしくTシャツとジーンズに着替えて家を飛び出した。 走って公園に向かいながら、もう一度思考を巡らせる。 -俺は佐藤とこのままの関係でいたいけど、どう返事しよう…。行動しろって宗方は言うけど、それって付き合ってみろって事なのかな。……ああ、もう。結局答えが出ないよ…。- 泣き出したいような気持ちを抱えて洋平はひたすら駅前の公園を目指した。 「佐藤!ごめん…っ、待たせた!」 「お疲れ、俺が早く着いただけだから走ってこなくて良かったのに。」 公園には約束の19時よりお互い早く到着した。 龍二郎はいつも通りの眼鏡姿で公園の少し奥にあるベンチに腰をかけスマホを操作していた。 洋平もそのベンチの隣に腰をかける。 公園は薄暗く、ベンチの横の街灯が丁度点灯し公園を明るく灯す。 静かな公園のベンチで2人腰をかける。 いつもなら自分から話題を振り話を盛り上げるように動く洋平も、今日ばかりは話始めるタイミングを掴めずにいた。 最初に沈黙を破ったのは龍二郎だった。 「…これ、あげる。」 唐突にそう言われ、龍二郎の手元を見ると困り眉の黒猫のマスコットが付いたキーホルダーを手元にぶら下げてこちらへ寄越していた。 「何これ…?」 「モネラちゃんと一緒に戦う守り神の猫のキャラ。この猫洋平に似てるなって思って。今日のファンイベントで買ってきた。」 「あ、ありがとう…。」 戸惑いながらもその猫のキーホルダーを受け取った。 龍二郎はその後間を置いてぼそっと呟いた。 「緊張する…。」 「…そうだよな…。俺も……。」 洋平も答え黙り込む。 しばらく沈黙が訪れる。 「じゃあ、洋平の答え聞く前に俺からいい?」 龍二郎は静かに話し出した。 「まず、この一週間ありがとう。仮でも交際出来てすごい楽しかったし幸せだった。誰かの心がこんなに欲しいと思ったことは今まで無くて、正直この一週間は楽しさと辛さの両方感じた。」 龍二郎は少し俯きながら珍しく自信無さそうに話していた。 「前にも言ったけど、俺は洋平の純粋で素直な所や特別扱いしないで普通に接してくれる所に沢山救われた。そして表面的じゃない俺自身を知ってくれようとする洋平のことが俺自身もっと知りたくなった。そして洋平の事がすごい好きになった。俺自身人を好きになるっていう感覚が分からなくて最初の方は抑えきれなくて洋平に警戒される事も沢山しちゃったけど、全部洋平の事が好きだからやった事だから。その気持ちは今も変わらない。」 龍二郎の率直な想いは洋平にもひしひしと伝わる。 好きの感情をちゃんと言葉にして伝えてくれる龍二郎へ関心と嬉しさを心で受け止める。 「ありがとう…。佐藤はすごいな。本当に自分の感情にブレがなくてちゃんと自分自身にも向き合ってて…。」 洋平は龍二郎のストレートな告白に改めて感謝する。そして、少し尊敬の気持ちすら持った。 「嘘が付けないくらいには洋平のこと好きだよ。」 会話の合間合間で告白してくる龍二郎との掛け合いもこの一週間で大分慣れた。 「そんなに男前なのに、本当面白いよな、佐藤って。」 洋平は足元に視線を向けたまま微笑む。 「…俺は今日この日に全てかけてきた。洋平がどんな返事をくれてもちゃんと納得して帰る。今日のこの日のためにこの一週間で後悔は無いように過ごしたつもり。無理強いするつもりも無い。だから、洋平の素直な気持ち聞かせてくれる?」 龍二郎は隣に座る洋平にしっかり体を向けて目を見て伝える。その様子は龍二郎の覚悟そのものであるように洋平の目にも映る。 「…わかった。」 気迫迫る龍二郎の様子に、洋平もしっかり向き合わなければと覚悟を決めた。 「俺もずっと考えてた。佐藤に対する俺の気持ちは……」 そこまで言葉にして、言い淀む自分がいた。 でも逃げてはダメだ。 洋平はありのままの気持ちをちゃんと言葉にする決意をする。 「やっぱり好きって気持ちがわからないんだ…。」 洋平は龍二郎の顔が見ていられなくて、また足元に視線を戻し話を続ける。 「楽しいし、一緒にいたいとも思うけど、友達のままのこの関係が俺には心地いいって…思ってて…。佐藤の気持ち聞いて、やっぱり俺は同じ気持ちを佐藤に返せるのか、自信がなくて……。」 洋平は今まで結論が出なかった自分の考えが、ここにきて言葉に出来ていることを妙に冷静に捉えていた。 「……だから、俺はやっぱり佐藤と友達でいた……」 「わかった。」 話の最後の方を龍二郎に遮られる。 「洋平の気持ちはわかったよ。」 そう言われて洋平は恐る恐る龍二郎に視線を向ける。 龍二郎は相変わらず眼鏡で目の表情は分からなかったが…… 口元は微笑んでいた。 「……そしたら、」 友達のままでいてくれるの?と言葉にしようとする洋平より先に龍二郎は話し出す。 「今日までありがとう。本当に幸せだった。洋平は友達のままでいたいって思ってるのかもしれないけど…。正直俺は結構ツラい。多分友達のままでいても、俺は洋平に無意識に色々求めて自分を押さえ込んで辛くなると思うんだ…。だからもう洋平とは今までみたく接することは止める。我儘でごめん…。でもこれは俺の中でのケジメみたいなもので、最初にも約束してもらった事でもあるから。……あ、図書委員は普通に務めるから。これからはクラスメイトの1人として宜しくな。ちゃんと気持ち伝えてくれてありがとう。」 龍二郎は一通り話すと、スっと席を立つ。 「じゃあ、気をつけて帰ってな。」 そのまま洋平を残し龍二郎は駅の方へと消えていった。 洋平はその一連の流れをまるで第三者のような気持ちで眺めていた。 本当に、あっさりと、龍二郎は帰っていった。 そして、最後まで俺を気遣って優しかった。 自分で相手を振っておいて洋平は呆気に取られる。 「これで、良かった……んだよな…。」 そのまましばらく洋平はベンチに腰掛けたまま貰った猫のキーホルダーを握りしめ呆然としていた。
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