161人が本棚に入れています
本棚に追加
朝起きると洋平は無意識にスマホに目を向ける。
時間を確認する意図ともう1つ。
メッセージを確認するために。
目を通したスマホにメッセージは届いていなかった。
いつもと同じ朝のはずなのに、小さい違和感が拭いきれない。そんな気持ちの悪い感覚を紛らわせるかのように洋平はベッドから抜け出し洗面所に向かい違和感を払拭するようにいつもより冷たい水で顔を洗い意識を覚醒させる。
結局昨日公園で気持ちを伝えてからは、少し期待をしていたが龍二郎からの連絡は全く無かった。
-毎日あった連絡が無いと…何か物足りないような感覚…。-
そんな手持ち無沙汰感を抱きながらも学校へ向かった。
「おはよー」
洋平は先に着ていた後ろの席の宗方に声をかける。
「おはよう。どうだった?」
宗方はまるで待ち構えてたかのように挨拶もそこそこに回答を急かす。
「……断った。」
「…そうか。予想が外れた。」
洋平は小さい声で宗方に伝えると前に向き直る。
前を向く洋平の背中に宗方は話しかける。
「お前はそれで納得いってるんだもんな?」
洋平は考え込む。そして前を向いたまま小さく頷いた。
-変に期待持たせるよりキッパリ言えて逆に良かったよな。…そう思うことにしよう。-
そう思いながらチラッと龍二郎の席の方に視線を向ける。
龍二郎はいつも通り本を読んでいて特に変わった様子は見受けられなかった。
-うん、いつも通り。大丈夫。-
そのまま何事もなく1日を過ごした。
帰り際、バイトに向かうために早めに教室を出た洋平は、玄関前で龍二郎と出くわした。
龍二郎のすぐ後ろまで来ていたので、何気なく声をかけてみた。
「お疲れ!」
「……」
龍二郎は一瞬こっちに視線を向けるも、何事も無かったように前に向き直りそのまま玄関を後にしてしまった。
その反応は一番最初に話しかけた時と同じような態度で、全く興味を持たれていない対象への対応であった。
-……本当に話さない気なんだ。先週まであんなに楽しく話してたのに…。-
その冷たい対応に今までとのギャップが大きすぎて洋平はショックと胸の痛みを感じ、その場からしばらく動けなかった。
龍二郎と全く話すことも無く、連絡を取り合うことも無い1日を過ごして洋平は息が詰まるような気持ちを抱いていた。
-あんなに急に態度変えられると…すごい悲しい。嫌いになった訳じゃないのに…。でも、俺が招いた結果なのか…。これで…良かったんだよな。時間が経てば、またこの日常に慣れてくよな…。-
翌日も朝起きて日課になっていたメッセージチェックをするも、新着のメッセージは勿論入っていない。
いつも通り登校して、いつも通り授業が行われて、いつも通り友達と話す。全部いつも通り。
-いつも通りってこんな感じだったっけ?-
洋平は休み時間にぼーっとスマホを眺める。
休み時間はよく龍二郎から連絡が来ていた。今は静かなスマホ。
見つめていたスマホ画面にメッセージの通知が入る。
洋平はハッとしてすぐにそれをタップする。鼓動が早まる。
『悪い!昼休み現代文のテキスト貸して!』
開いたメッセージは、隣のクラスの友人からのものだった。
洋平は肩を落とす。
-あれ。俺、何でがっかりしてるんだ?何を期待していたんだろう…。-
友人に返信を返しそっと龍二郎に視線を向けた。
同じクラスにいるのにあまりにも遠い存在に感じる。
先週までとの違いに洋平は困惑したままいると、視線の先の龍二郎がスマホを操作する。
もしかしたら俺に連絡してるのか?そう思うと洋平は自分のスマホに視線を変え、液晶を見つめる。
しかし、連絡は一向に洋平の元に届くことは無く休み時間は終わった。
放課後は久しぶりに宗方や他の友人達と近場のファストフードで試験勉強をした。
英語が難しくて全然捗らなかった。
新作の商品が意外と美味しかった。
街の中でモネラちゃんの缶バッジ付けてる人を見た。
…何故か日常の些細な出来事と連動して龍二郎の顔が毎回浮かんできた。
-佐藤に言いたいこと沢山あるのに…。-
洋平はその都度胸の中に募る重たい空気を吐き出すように深いため息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!