第一話 孤独の球場

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第一話 孤独の球場

 ずきずきと、側頭部が痛む。脳の芯に棘が生え、内側から突き出てくるような激しい痛みに襲われる。頭の血管が一定のリズムで呼吸するように跳ね上がる。頭の素材が何かしらの金属にすげかわったかのように重い。それと同時に、走馬灯のように見たこともない記憶が入り乱れる。青いスパイクでボールを蹴る映像。背の高い色黒の男子生徒に柔らかそうな白いタオルを渡す映像。青と黄色のボールがこちらに向かってきて、それを三角を作った両の手の平で軽く弾く映像。学校でこの頭痛に襲われた時は大抵このような部活の映像が頭に入り込んでくる。  いつもならば五限が終わると同時に教室を出るのだが、今日は運悪く教師に捕まってしまった。先日返却されたテストの点数が低かったことに対する説教だ。冗談じゃない。そんなことは貴様が気にすることではあるまい。放っておいてくれ。痛みから気を逸らす様に悪口を頭で絶えず再生した。席に戻り、鞄に手を掛けた時には既に遅かった。とんでもない痛みの渦に耐えかねて俺は机に突っ伏す羽目になる。くそ、なんだってこいつらは教室で着替えるんだ。さっさと部室なりなんなりに行って着替えろよこの痴れ者共が。そう茹で上がる頭の中で悪態をつきながら俺は皆が教室から去るのを待った。呼吸に集中し、痛みから意識を逸らそうと必死になる。冗談じゃない。神様に祈れとでも言うのか? 俺は無心論者なんだ。祈ってたまるか。そんな不愉快な感覚の中でもがくうちに、意識は暗い穴の中へ落ちていった。
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