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「ここはどこなんですか? 見たところ何かの事務所みたいですけど」
「ああ、私の探偵事務所だよ」
探偵事務所? なにやら怪しい人に拾われたもんだ。もしかしたら早く帰った方が良いのかもしれないな。
「おいおい、怪しいなこの女って顔に書いてあるぞ少年。」
彼女はわざとらしく眉間に皺を寄せながら言った。そしてひと口珈琲を飲むと、ごそごそとポケットを漁り始めた。
「まあ仕方ないよね。まともな依頼が来るわけでもないし。迷子のペットやら老人やら探したり浮気調査をしたり......そうだね、お悩み相談とかね。その辺が中心のお仕事だよ」
そう言い終わると名刺を渡してきた。
「伏見 文」
という名前と、伏見探偵事務所、それから住所、電話番号が書かれていた。
「どうぞ困ったことがあればよろしく。安くしておくよ。君のお名前は?」
「俺は深草薫です。」
「おお、良い名前だね。月並みな褒め言葉で悪いけど。よろしく、薫くん」
伏見さんは僕の手を半ば無理やりひったくって握手をした。随分強引な人だ。美人が故かあまり悪い気はしないものの変な人間、と脳味噌にしっかりと刻んでおく必要がありそうだ。そして彼女はしれっとこんなことを言った。
「あ、そうそう。なんだか辛そうだったから私が作った鎮痛剤、勝手に飲ませておいたよ」
「は......? 伏見さんが薬を?そういう資格でも持ってるんですか?」
「いや? そんなもの持っていやしないさ。ただの趣味みたいな? まあそのおかげか君も楽になったみたいだし、構わないよね?」
変な人間、とだけでなく危険な人間、とも刻み込んでおいた方が良さそうだ。彼女、伏見文には、モラルが欠如している。
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