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「まあなんだ。いわゆる一般的な浮気調査さ。依頼人は奥さんだ。ヤス子さんっていうらしいんだがこれがなかなかキツいんだよ香水が!」
「伏見さん。話が脱線しそうな感じですよ」
「む。これは失礼した薫くん。まあ何はともあれヤス子さんは夫のヒロシさんの浮気を疑っているわけだ。全く参っちゃうよね。こんな暑い中だから頭が茹って苛々としてしまうんだよきっと。」
明らかに話が脱線しようとしている。二度も止めるのはなんだか馬鹿らしいな。しばらく放っておくか。
「まあつまりなんだ。奥様沸騰中だ。怒り心頭に発するとはこのことなんだなと。怒涛の勢いだったよ。おや、私としたことがまた脱線してしまったみたいだね失礼失礼」
彼女はサングラスをくいっと指で上げ、続けた。
「どうやらヒロシさん、外で奥さん以外の女性と会っているようでね。その現場をヤス子さんの知人に見られてるっぽいんだよねえ」
「それじゃあなかなか決定的じゃないですか」
「そうなんだよ。でもまあ奥さんも馬鹿じゃあないからね。噂好きの知人のことだから話を盛りに盛っているんじゃないかと考えた。それでウチに依頼に来たみたいだ」
なんだか思ったよりも話は面白くなさそうだ。これじゃあ殆ど決まったようなものじゃないか。いくら噂好きとはいえ、そんな人同士が喧嘩になるようなことを盛って話すような人間はなかなかおるまい。勿論、その知人に何かしらの企みがあるのでなければ、という話だが。
「奥さんとしても信じたくないってところですかね。くだらない。だったら直接聞くなり自分で尾けるなりしたら良いんですよ」
伏見さんは後ろに仰け反り足を組んだ。
「まあそういうショッキングな場面は自分の目で見たくないってことだろうよ。ヤス子さんは一見なかなかに豪快そうだったけど......繊細な部分もきっとあるのさ」
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