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暫く観察していると、ある女性がヒロシさんに声をかけた。
「どうやら待ち人が来たようだ」
伏見さんはサングラスを少し下げ、身を細め、口角を意地が悪そうに曲げた。
ヒロシさんは何やらへこへこと頭を下げながらその女性に紙袋を渡した。女性は日傘を差し、苛立たしげに彼と話した後もと来た方向へと帰って行った。ヒロシさんはそれをもの惜しげに眺めながら呆然としていた。ここからでは表情まで覗くことは出来ないが寂しげな雰囲気が漂い、見ているこちらまで心が痛むような気がした。
「浮気にしては何か様子がおかしくないですか?」
隣にいる伏見さんに話しかけるも、彼女は黙ったまま固い表情で二人を見ていた。集中しているのか、何か考え事をしているのかは分からないが俺の声は届いていないらしい。そして口を開いた。
「薫くん。君が来てくれて良かったよ。どうやら調査を効率良く進めることが出来そうだ」
伏見さんは立ち上がりポケットに手を突っ込むと髪を縛り直し言った。
「私はあの女性を尾行する。君にはヒロシさんの尾行をお願いするとしよう」
突然の大抜擢に俺は少したじろぐ。いやいや、そんな大事なことついさっき手伝いを申し出た俺に頼んで良いのかよ。意見しようと伏見さんの方を向くと、
「完璧に仕上げてくれるんだろう? お手並み拝見させて貰おうじゃないか」
得も言えぬ圧力に屈し、俺は黙ることしか出来なかった。引き止める言葉も出せずにいると、彼女は鼻歌を歌いながら女性の向かった方向へと歩いて行ってしまった。
良いだろう。この深草薫、しっかりと証拠を掴んでやろうじゃないか。この浮気調査のMVPは戴く。後でたんまり報酬でも請求してやろうじゃないか。スポーツドリンクの蓋を開け、喉に水分を流し込む。空になったペットボトルを片手に、俺はヒロシさんの後を追いかけた。
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