第一話 孤独の球場

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 気がつくと、教室には自分ひとりだった。照りつける夕日が体を刺し、ちりちりと肌が痛む。机はじっとりと汗で湿っていた。未だに重い頭を持ち上げながら、ハンカチで顔を拭う。喉は張り付く程に乾いていた。教室の時計の針は五時半を指していた。一時間は気を失っていたらしい。机をハンカチで軽く拭き、俺は鞄にそのハンカチを叩きつけた。 「くそっ!」  とんでもなく苛立つ。どいつもこいつも呑気な顔で俺に危害を加えやがる。正確には自分の体質の所為だが、俺に言わせれば他人に時間を奪われたという事実は変わらない。目の錯覚で動いて見える図形の様に、目の前の景色がぐらぐらと歪む。力の入り切らない足を動かし、鞄を抱えて教室の出口へと向かう。取り敢えず、水を飲みたい。飲んだらすぐに、真っ直ぐに家に帰ろう。  教室を出て目の前にある銀色の水道に寄りかかり、蛇口の栓をひねる。夏の温度が染み込んだぬるい水が喉を潤し、腹に入るのを感じる。今は何でも良いから水分が欲しかった。水を満足いくまで飲むと、頭痛と倦怠感は幾分ましになった。鞄を肩に掛け直し、俺は階段を降りた。
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