第一話 孤独の球場

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 しばらくそこでぼうっとしていると、隣に父親程の年齢の中年男性が座った。彼は声をかけてきた。 「いやあ、今日は暑いね。敵わないよ。君も帰り道に一旦休憩ってところかな?」  おいおい。俺は今ひとりの時間をゆったりと満喫していたんだ。声を掛けるんじゃない。不審者として通報でもしてやろうか。そんなことを考えながらも、流石にここで無視なんかしたら空気が悪くなって余計にくつろぐどころではなくなってしまう。そう思い俺は返事をした。 「まあええ、そうですね。暑さは苦手なんですよ。少し休んでから帰ろうかと思いまして」 「そうかあ。高校生は大変だねえ。部活で運動した後じゃこの暑さは堪えるだろう」 「いや、俺は部活には入ってないんですよ。どうも運動が苦手で」 「おや、そうかい。運動はした方が良いぞ」  ああ、始まった。またこれかよ。このくらいの歳になった人間はみんな揃って説教臭くなっちまうのか? 自分が果たせなかった青春を託そうってところか。冗談じゃない。貴様ら大人の青春まで背負っていられるか。俺は俺の青春を過ごすのに大変忙しいんだ。あまりにも輝かしいこの青春の日々を謳歌するのだ。
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