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俺はゆっくりと体を確かめるように起き上がる。するとどうやらソファのその奥に人が居たらしい。目がチカチカするような派手な柄シャツを着た女性だ。後ろでくくった黒髪が美しい。その女性は、こちらを振り返ることもせず言った。
「おや、少年。目が覚めたかい。気分はどうだい? 珈琲は好きかい? あんなところで倒れてどうしたんだい? 今日は暑いからね。やっぱり熱中症かな? あ、鞄は入り口のドアの隣に置いておいたよ」
なんだなんだ。一回に話す情報量じゃないだろうそれは。あまりにもせっかち過ぎる。どれから答えたものかと悩んでいると、きょとん顔でこちらを振り向き、彼女は笑った。
「これは失礼。流石にいっぺんに聞きすぎたね。取り敢えずこの珈琲を飲んでくれ。ちょうど今淹れたての最高のやつだ。ホットだけどね」
珈琲の体を溶かすような苦く優しい香りが部屋に広がった。白いカップを机に置くと彼女は向かいのソファに座り、こちらを見つめてきた。見たところ、二十代前半から半ば程だろうか。銀縁の小さな丸眼鏡をかけた、非常に整った顔立ちの不思議な女性だった。
「ちょっと状況が読めないんですけど、もしかして俺倒れてました? それで貴方が助けてくれたみたいな......」
「そう。正解。ピンポンだよ少年。察しが良くて助かるねえ」
「ああ......ええと、そりゃどうも」
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