第17話「旅立ち」

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玄関のドアを開け、浩市の姿を見た瞬間、飛びつきたくなる衝動をアミは抑えた。 あまりにも唐突な気がしたからだ。 「こんばんは、遅くに済まないね。」 「いえ、あたしも浩市にさんにちょうど相談したいなと思っていたんです…。」 「相談?仕事のことかな?」 アミは浩市を部屋に招き入れ、テーブルに拡げた紙を見せた。 「お、マインドマップ、やってみたんだ?」 「書き方、よくわからなくて…。」 「書き方なんて、関係ないさ。アイディアが出てくればいいんだ。」 「それが、煮詰まってしまって…。」 「なるほど。じゃ、この余白にアミの得意なものと苦手なものを書いてみたら?」 「え?そんなこと書いてもいいんですか?」 「もちろん、自由な発想が大切なんだ。」 アミは言われるがままに「得意なもの」と「苦手なもの」の枝を左下に描いた。 そして、引き出しにしまってあったナプキンを取り出して、得意なものをそのまま枝葉として足していった。 人と話す 人の話を聞く 人の世話をする パワーストーンを眺める 絵を描く 次に、苦手なものも枝葉に加える。 計算 読む 描く ニュース パソコン 浩市は紙を見てアミに言う。 「苦手なもののところに大きく罰点を描こうか?こうすると、点と点がつながってくる気がしないか?」 「はい、何となくイメージが湧いてきました!」 初めに考えていたインターネットによるパワーストーンの販売は選択肢から消えた。 競争も厳しいし、パソコンが苦手なアミにはそもそもハードルが高い。 アミは独り言のように呟く。 「パワーストーンカフェ?それとも、パワーストーンバー?」 「ターゲットによるね。ターゲットは?」 浩市が質問を投げかける。 「ターゲットは男性を考えています。女性をターゲットにしているところは多いし。」 「男性だと一般的にはバー。女性だとカフェだろうね…。」 「あたしもそう思っていました。」 「男性をターゲットにするアイディアは斬新だし、競合も少ない。問題は潜在ニーズということだ。」 「潜在ニーズ?」 「そう。アミのお客さんは意外にもパワーストーンに興味を示した。しかし、本人はそのニーズに気づいていなかった。つまり、アミとの会話によって、ニーズが表面に出てきた。本人が気づいていないから、来店動機がそもそも低いんだよ。」 「そっか…。そうなると、どっちも難しいのかな…。」 アミは腕組をして考え始めた。 浩市はニヤニヤしながら、その様子を眺めている。
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