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「俺もさ、正直このプロジェクトを成功させるのは難しいだろうって思ってた。うちの課長は何も知らない勝本を出そうなんて言ってるし、社内的にも全然期待してないんだなって」
カチカチとウインカーを鳴らし右折車線に滑り込む。眼鏡の横顔は独り言みたいに言葉を続けた。
「リーダーも女だって言うし」
この人も女だと言って私を下に見るのだろうか。男の方が残念な生き物だというのに。
対向車の切れ間を縫って交差点を右折する。周囲には大き目のスーパーやホームセンターが並んでいて、看板を照らす明るい照明に雨が光っていた。
「いっそリーダーを取って代わって、俺のキャリアの踏み台にしてやろうかとも思ったんだけど」
タイヤが水を切る音、メトロノームみたいなワイパーの音をBGMに低音が紡がれる。
「お前、最初の日に言っただろう」
眼鏡の顔は正面を向いたまま続けた。
「失敗前提のプロジェクトなんてやるつもりはありませんって」
――私は失敗前提のプロジェクトなんてやるつもりはありません。
それはリーダーを任されたときからずっと変わらない想いだ。失敗前提ならそもそもやらなきゃ良い訳だし、どんな小さなチャンスだって生かしていきたい。それはキャリアの踏み台にと考える佐々木さんと何ら変わらない。
佐々木さんはふっと笑い、マスクが微かに揺れる。
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