枯れ女

13/31
前へ
/31ページ
次へ
 佐々木さんは年上な所為もあって基本的に高圧的な人だったが、エースセールスと呼ばれるだけはあって仕事はきっちりとこなす人だった。目標の立て方も、優先順位の付け方も、作業のやり方一つとったって、全てがきっちり理路整然としていた。その上作業スピードも驚くほど速くて正確。 (やり辛……)  どちらかと言えば考える前に行動する体育会系な私にとって、佐々木さんみたいな理詰めでやってくる理系の人間は苦手なタイプだった。私が得意としている「曖昧なことを力業で乗り切る」みたいなことが許されないからだ。 (私は新井田みたいなやる気のない人間が嫌いだけれど、佐々木さんは私みたいな大雑把な人間が許せないんだろうな)  マウスに手を乗せる。ディスプレイに映っているのはプロジェクトとは関係のない日常業務の一つ、営業部への月次報告書。 「今日残ってやっていきます」  お子さんが通う幼稚園で父兄にコロナ感染者が出た関係で、営業企画(おなじ)部の会田さんはプロジェクト発足直後から休暇を取っていた。一日二日であれば何の問題もないのだが、一週間以上一人の人間が抜ける穴は大きく、対応しなければならない日常業務が増えて、プロジェクトに費やす時間が取れていないのが実情だった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加