枯れ女

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「部長。今日も残ります。今日の内に来週の準備をある程度進めておきたいので」  眉間にシワを寄せディスプレイを睨み付けていた部長がこちらを向いた。 「羽賀。あんま無理すんなって言っただろ。ここ最近残業続きじゃねぇか」 「じゃあ明日、休日出勤しても良いですか」  半ば本気でそう返す。休日出勤であれば途中で余計なタスクが割り込むことも無いだろう。 「阿呆。休日出勤なんか許すかよ。良いか、勝手なテレワークも禁止だ。社内イントラに繋いだらただじゃおかねぇぞ」 「だから残業します」 「……ったく、分かったよ」  社畜でも目指してんのかこいつは、とかブツブツ聞こえてきたが、私は「ありがとうございます」と小さく呟いて正面に向き直った。佐藤部長は何だかんだ言って理解のある上司だ。社外に向けて上辺だけは「女性活用」をアピールする上層部と違い、女の私が上を目指すことをきちんと応援してくれている。だからこそ今回のプロジェクトリーダーも任せてくれたのだと思う。  私はディスプレイ横のファイルボックスから資料の束を引っ張り出した。(仮称)二〇二〇年カムバックプロジェクトから変わっていない表紙のそれ。私はその文字を見なかったことにして紙を捲り、スケジュールのページで手を止めた。 (進捗は芳しくないわ)  ギリリと奥歯を噛み締める。予定より一週間遅れていた。顔を合わせて打ち合わせができないことが思った以上に足を引っ張っている。あんな風に個性豊かなメンバーたちだ、面と向かって話さなければ意見一つ合わせるのだって容易ではない。 (やっぱり来週あたり集まらないと駄目ね)  書類をボックスに戻し、パソコンに視線を向けた。今日は夕方から、がっつりプロジェクトの資料作成をしよう。
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