枯れ女

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「お疲れ様でしたー」  遠くの島から聞こえてきた挨拶に顔を上げる。壁に掛けられた時計は午後八時を示していた。 (あと少しだけ)  営業企画部のあるこのフロアには、私を含め数名の社員しか残っていなかった。ブラインドの下りた窓の外は、いくら日が長くなったとはいえもう真っ暗に違いない。私は首をぐるりと回して、再びパソコンに視線を戻した。  ――前回は数字も違っていたし。  ディスプレイに直接指を当て、数字を確認する。もう間違えられない。月曜日は……OK。火曜日も……OK。水曜日は……。 「やっぱりな」 「きゃっ!」  急に頭上から落ちてきた声に小さく悲鳴を上げた。 「変な声出すな」 「佐々木さんこそ……驚かさないでくださいよ」  営業企画部島のすぐそばに立っていたのは二課の佐々木さんだった。営業部は一つ下のフロアだから、このフロアでこの長身を見かけることはほとんどないのだ。
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