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「……」「……」
無言で私を見下ろす顔に、私は手のひらを差し出した。
「どうぞ」
「いや、俺は特に何もない。羽賀は?」
「私もです」
「…………」
「……」
(この沈黙。苦手だわ……)
また被るんじゃないかと声を掛けあぐね無言のまま眼鏡の顔を見上げていると、佐々木さんが急にぷ、と吹き出した。
「くく……」
マスクの口元にこぶしを当てて、肩を震わせている。
(笑ってる?)
佐々木さんは笑いの滲む声で「タイミング……」と呟いた。
「悪いですね、私たち」
低い声を拾って続けると、佐々木さんはこぶしを下ろし腰に手をやる。つやつやと光る黒革のベルトに長い指が掛かった。
「逆だろ。タイミング良すぎ」
節の目立つ長い指が眼鏡の弦を持ち上げ、細い瞳が緩やかに弧を描く。
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